即効性のある引力と未知なる感覚が共存するアートの面白さ
ーーアートの世界では、何をもって作品を評価するべきか、わかりやすさは作品の価値になり得るのか? といった論争がたびたび巻き起こりますが、MANJIさんはどのように考えていらっしゃいますか。
MANJI 非常に難しい問題なので、もしかしたら今後考え方が変わっていく可能性もあるんですけど、俺はアートは難しくて当たり前だと思っています。そもそも、特に現代アートと呼ばれるものは、目に見えない領域のものを物質を用いて可視化させたり、知覚可能な状態にすることを目的としているので、その作品の内側には膨大な情報量が詰まっていて、一瞬ですべてを理解できるようなものではないんです。
概念的なものや学術的なもの、そこには構造論が潜んでいたり、もしくは関係性を示唆しているのかもしれないし。作品というのは、非物理的な何かを指し示すアイコニックな存在であるべきだという持論があるので、まだ誰も到達し得てない未知のゾーンを体現できていればいるほど、複雑で難解にはなるけれど、今まで体感したことのない何かを感じさせてくれる良いアートなんだと思います。

MANJI 現段階でまだ誰も体感したことのないゾーンの非物質的な何かを作品で表現することができたとしたら、それって感覚的な世界における超最先端ということになるじゃないですか。最新の再生医療テクノロジーや塗装技術とか、そういった専門的な知識って3分で学べるものではないですよね。
人類史っていうのは、不可能を突破し続けた結果だから、その積み重ねにはものすごい情報量があって、時間軸で考えても今が最も複雑な状態なんだから、この先に立つものはさらに難解で高度なものになるだろうと思っています。
ーー複雑さというのはある種のストレスにもなり得ると思うのですが、その点はいかがでしょうか。
MANJI ちょっと余談ですが、アシスタントが量子力学についてよく調べていた時期があって、一度解説してもらったことがあるんですけど、途中で向こうが「これ以上説明するのはもう無理」って匙を投げたんです。ガッカリして、結局わかんないんかい! って言ったら、彼はそうだね〜って笑った後に、ボソッと「もし仮に、ズブの素人にたった30分で量子力学のすべてを教えることができるような理解力を俺が持っているのであれば、今ごろ教授か何かになってるよ」って。そのとおりじゃないですか。あらゆる学問って、やっぱり理解するのには非常に労力を要するものなんです。
対人関係も同じで、出会って3分で相手のことを全部わかった気になったとしたら、それは勘違いだと思う。人間が持ってる情報量ってそれぐらい複雑なもので、下手したら一生かけて誰かと時間を共にしたって、最後は相手のことを「まぁ俺は良い奴だと思ってたよ」ぐらいにしか言えないみたいな。その複雑さが人間らしさなので、アートっていうのは簡単にわかってもマズいんです。
ただ、それじゃ誰も興味を持たないから、0.2秒でオーディエンスを惹きつけるような、即効性のあるインパクトは必要で。その引力と、どこまで追っても追い切れないであろう奥深さのコントラストが現代アートの面白い部分だと思っています。