5月、ニュースサイト「AERAdot.」が、2023年に難関大学へ合格者を輩出した高校をランキング形式で発表した。1993年のランキングも掲載されており、難関大学ごとのトップ10の高校を見ると、ここ30年で大きく変化していることがわかる。東京大学への合格者ランキングを例に見ると、東京の開成高校や兵庫の灘高校など30年前から変わらずトップ10にランクインする高校がある一方で、千葉の渋谷教育学園幕張高校や、奈良の西大和学園高校など新たな顔ぶれも登場している。逆に30年前はトップ10にランクインしていたが、2023年には姿を消した高校としては、鹿児島のラ・サール学園高校や、国立の東京学芸大附属高校などがある。
そこで今回は、全国の名門進学校の最新教育事情について、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏に解説してもらった。
30年前は知識詰め込み教育、現在は応用力の育成教育
まず、30年前と現在で、それぞれどんな特徴をもつ高校が東大と京都大学への合格者を多く輩出していたのか。
「30年前の東大合格者数のトップ3は、1位が開成高、2位がラ・サール学園高、3位が東京学芸大学附属高。同じく30年前の京大合格者数のトップ3は、1位が洛南高、2位が洛星高、3位が大阪府立北野高となっています。これらの高校は『ガリ勉高校』というイメージが強かったと感じます。つまり、知識を多く詰め込むことが得意な生徒が優秀な大学合格実績をあげていたという印象です。30年前の大学入試は、いかに多くの知識を覚えているかを試す暗記分野の問題が多い傾向がありました。ですから教育現場としては、知識詰め込み教育を行っている高校が大半だったのです。
東大のランキングだと開成高やラ・サール高、京大だと洛南高や洛星高といった私立の学校は中高一貫教育です。そのため、一般的な公立校などで6年間かけて行う範囲の勉強を5年間に圧縮し、最後の1年間を丸々、大学受験対策に充てており、この際に知識の詰め込み教育にブーストをかけていた印象がありますね。これは私立校が多く上位にランクインする理由のひとつでもあります」(石渡氏)
では、現在ランクインしているのはどんな高校なのだろう。
「現在の東大合格者数のトップ3は、1位が開成高、2位が筑波大学附属駒場高、3位が灘高。同じく現在の京都大学輩出者のトップ3は、1位が大阪府立北野高、2位が洛南高、3位が東大寺学園高となっています。
30年前と変わらずランクインしている高校も多いですが、新たに入ってきた高校も少なくありません。こうした高校は、従来の知識を詰め込むだけの勉強だけでなく、知識量が多いことは前提として、読解力や応用力まで発揮できる勉強にシフトしている印象があります。こうした教育方針の変化の背景には、大学入試改革があります。というのも、2021年から従来のセンター試験が大学共通テストという名称に変わっただけでなく、以前より問題文の文章量が倍ほどに増えたのです。また各大学の2次試験に関しても全体的に問題の文章量が多く、より高度な読解力と応用力が求められるようになりました。それに応じて、各高校の教育もそうした力を育成する教育にシフトしたのです」(同)