問われる損保ジャパンの責任
今回の不祥事をめぐっては、それを逆手に取って利益を得ていた疑いが浮上している損保ジャパンの責任を問う声も広まっている。そこで、7月18日付当サイト記事『損保ジャパン、ビッグモーター不正を黙認・利用し契約増の利益享受か…問題体質が露呈』を以下に再掲載する。
――以下、再掲載――
大手中古車販売会社・ビッグモーターが、顧客から事故車の修理を請け負った際に、故意にゴルフボールを入れた靴下を車体に打ちつけて傷を付けたり、ドライバーで車体に引っかき傷を付けたりし、損害保険会社に自動車保険の保険金を水増し請求していたことがわかった。14日付「東洋経済オンライン」記事は、不正を受けて三井住友海上保険と東京海上日動火災保険がビッグモーターの修理工場への、自動車事故を起こした保険契約者の紹介を停止していたなか、損害保険ジャパンのみが再開し、それによってビッグモーターを窓口とする自社の自賠責保険の契約数を増やしていたと報道。同記事によれば、損保ジャパンはビッグモーターの不正の舞台となった自動車修理事業部門に5人の出向者を送り込み、重要な会議にも出席していたといい、損保ジャパンの責任を問う声も広まっている――。
問題が表面化したのは昨年。前出の損保3社に水増し請求を行っていたと各メディアで報じられたが、ビッグモーターは当初、組織的関与を否定していた。一般的に修理工場がこのようなことを行うのは、業界では常態化しているのか。それとも、ビッグモーターに特有のことなのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。
「自動車保険が適用される修理の際に、整備工場が修理見積を多少高めに算出することは、ないといえば嘘になるかと思われます。当初の想定より部品代が高くついたとか、問題ないと考えていた箇所も修理が必要だったなどという正当な理由で金額が上がることも当然ありますし、そうなることをあらかじめ見越して見積額を高めに設定するという場合もあります。ただそれは、あくまでモラル的に容認される範囲内であって、保険会社も暗黙の了解というか、忖度できる程度のことは大目に見てくれるという認識がお互いにあるでしょう。
ビッグモーターの件について、大きな問題と考えられるのは、故意に損傷を広げて請求額を上げるなどの悪質な不正行為が全社的に行われていたことです。個人経営や中小企業の整備工場が、さすがにそこまでのことはやらないと思います。不正が明るみになった時のリスクも考えるし、保険会社との信頼関係もありますから。ビッグモーターは組織的に不正を行うことで、整備士一人ひとりの罪の意識を薄めていたというのと、保険修理の売上を上げるための手法についてマニュアル化していたことなどが報道で明らかになっています。
また、保険会社とのパワーバランスも影響していたのでしょう。これだけのスケールの専業店になると、任意保険の契約数もトップレベルでしょうし、指定工場を多数構えていることから、自賠責保険の販売面でも保険会社にとってはビッグクライアントになるでしょうから、不正行為に対して黙認していた部分もあるのかもしれません」
ビッグモーターは世間からの批判の強まりを受けて今年1月に特別調査委員会を設置し、「お客様、お取引先様をはじめ関係する皆さまに多大なるご不安・ご⼼配をお掛けしますことを心よりお詫び申し上げます」とする「お知らせ」を発表したが、その後もラジオなどで積極的にCMの放送を継続。さらに、調査委員会が今月7日に報告書をまとめたが、日刊自動車新聞の報道によれば、損保3社には報告書の抜粋版のみを提出し、悪質な行為の内容や経緯を隠蔽。報告書の内容はいまだに対外的には公表されておらず、5日に出された「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」もわずか400文字足らずで、「関係者の皆さまにはご迷惑とご心配をお掛けしておりますことを深くお詫び申し上げます」などと記されているにとどまっている。
「通常、不祥事を起こした企業は、しばらくの間はHPの目立つところに謝罪やユーザーへの説明の文章、問い合わせ窓口の連絡先などを掲載するものだが、現在もビッグモーターHPのトップページ上には不祥事に関する記述は見当たらず、大きく『クルマを売るならビッグモーター』『6年連続買取台数日本一』『安心BIG車検は年間26万台の車検実績』などの宣伝文句が踊っている。さらに驚くのは、インフォメーションページをみると、今月5日に『特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ』をリリースして以降も続々と新規出店やチラシ公開を告知する宣伝リリースを出している点。昨年に問題が発覚して以降、経営陣が会見などを開いて釈明することもなく、ここまで徹底的に『完全スルー』戦術を取る例は珍しい」(全国紙記者)
15日付「テレ朝news」の報道によれば、第三者委員会の調査を受けた社員の4人に1人が不正行為に関与していたといい、組織的な関与が疑われている。そんななか、前出「東洋経済」記事で報じられたとおり、損保ジャパンが問題を認識しつつ黙認することで、自社商品の契約増という利益を得ていた疑いも指摘され始めている。ディーラーと損保会社の関係とは、どのようなものなのか。前出・桑野氏はいう。
「自動車保険の契約数や自賠責保険の販売額などの面で、保険会社にとってお得意様となるディーラーや大手中古車販売会社との関係は、それなりに深いといえるでしょう。例えば、小さな町工場が不正行為を繰り返していると、保険会社のブラックリストに挙げられて契約解除になる、という話は多々聞かれますが、大手に対してはそこまでの制裁が与えられているかは知るよしもありません。
しかし、今回のビッグモーターのような、保険修理に対する故意の悪質な不正が横行するというのは異常だと思います。ここまで常態化した事実が発覚すると、ビッグモーターという企業が不正な利益によって経営されてきたということになります。保険会社から騙し取ったお金で、社員の給与を支払っていたという見方にもなりますよね。一方で社員は、会社の利益追求に従い、上司から託されたマニュアルに沿って、間違った愛社精神で不正を行ってきたわけです。企業責任という面で非常に重い罪を犯していることになります。
ASV(先進安全自動車)の技術進歩とともに交通事故が減っているなか、自動車販売店や整備工場にとって『おいしい事故対応の仕事』が減っているのも事実。見積金額を上手につくれば儲けが出る、なんていう昔の話を今でも続けようという浅ましさが、大企業を窮地に追い込んでしまったのかもしれません。流通や燃料のコスト面、物価や通貨のリスクと、利益率が下がる一方の自動車業界は、最近あまり良いニュースが聞かれなくなりました。そんななかでも社会的モラルだけは失うことなく、こうした不祥事にキチンと制裁を施す社会であってほしいと願うばかりです」
また、ディーラー関係者はいう。
「地味な話なので普段は注目もされないが、実は損保会社と自動車ディーラーは切っても切れない関係にある。車を購入した人は、そのディーラーを窓口にして自賠責保険に入る。つまり、損保会社にとってディーラーは重要な販売チャネルの一つ。また、自動車の修理工場にとっては、損保会社とその代理店は保険契約者の事故車修理を仲介してくれる存在であり、その自動車修理事業も手掛けるビッグモーターと損保会社の関係は自ずと深くなる。もし仮に報道のとおり、不正発覚を受けて他の損保会社がビッグモーターへの事故車修理の紹介を停止しているなかで損保ジャパンだけが抜け駆け的に再開し、それによって自賠責保険の売上を伸ばしていたのだとすれば、保険業界トップクラスの企業として倫理的に明らかに問題といえる。今後、損保ジャパンの関与の有無が焦点となってくるだろうが、不正の責任の一端が損保ジャパンにもあるといわれても仕方ない」(同)