巨大化した妊婦と町並みの合成写真
藤井:一気に時代が下って、最近の作品も紹介しましょう。2016年に出版された、馬場磨貴氏の『We are here』(赤々舎)という写真集は、裸の妊婦とさまざま風景を合成させているのが、面白いんですよ。
――妊婦がウルトラマンのように巨大化しているのは、なんだかコミカルですね。
藤井:馬場氏は2010年から妊娠中の女性のヌードを撮り始めたそうですが、2011年以降彼女自身3度の流産を経験しました。自身のそのような経験もあり、「ある日街を歩いていて突然閃いた。目の前のビルの合間から、巨大な妊婦が現れた。その大きな姿に解放感とたまらない安心感を覚えた。それまで感じていた行き場のない怒りと、腹の底から湧きあがる不安のようなものが、ふっと軽くなった。かくして彼女たちは誕生した」と書いています。
――結構、重いテーマだったんですね……。その解説を聞くと、原爆ドームの手前の水面に、巨大妊婦が写り込んだ写真はどことなく生と死を感じさせます。
藤井:ここまでは日本の写真集を紹介していきましたが、洋書にも触れましょう。ヴィジュアルアーティストのカルメン・ワイナンの『My Birth』には、複数の妊婦のカラーやモノクロの写真が載っています。

――出産するときの女性の表情も撮られていますが、相当苦しんでいますね。
藤井:本書が制作された経緯というのも興味深い。自分自身3人の子どもを出産した母親でもある作者がニューヨーク近代美術館での展覧会に向けて、2000枚以上の妊婦や、出産中の女性の写真を集め、一冊の写真集にまとめ上げたそうです。これまで紹介してきた書籍と同様に、本書でも女性器は思いっきり写っていますが、これを本にするだけではなく、展覧会で展示していたのも驚きです。
――確かに、すごい展覧会ですね……。
藤井:次に紹介したいのが、レナート・ニルソンの『生まれる―胎児成長の記録』(講談社)という作品です。本書は海外で出版されたものの翻訳版ですが、胎児が胎内で成長していく過程を写真で紹介しています。妊婦がお産の練習している様子の写真もあり、出産写真集の中ではもっとも知られた一冊でしょう。

――確かによく見る写真ですね。
藤井:レナート・ニルソンという人物は、この分野では非常に有名な写真家ですからね。ほかにも、出産当事者の母親たちの間では、アン・ゲデスという写真家も知られています。ほのぼのとした妊婦と、かわいらしい赤ちゃんの写真集やカレンダーをたくさん出しています。トカナに掲載するにはかわいらしすぎますかね(笑)。