妊婦の写真がタブー視されていた時代
藤井:『いま』は被写体の女性が複数いましたが、岡田敦氏の『MOTHER』(柏艪舎)はひとりの妊婦の出産シーンなどを撮影した、ドキュメンタリー的な写真集です。これも思いっきり女性器が写っていて、股からだんだん赤ちゃんの頭が出てくる様子などが収められています。

――赤ちゃんとはいえ、人の頭が股から出てくるんだから、すごい話ですよね。
藤井:岡田敦氏は当店としても興味深い写真家で、リストカットしている女性ばかりを集めた『I am』(赤々舎)などの作品で知られ、同作品で木村伊兵衛賞も受賞しています。ほかに、女性写真家が撮った出産写真集もあって、それが野寺夕子氏の『臨月』(かもがわ出版)です。タイトルの通り、臨月の女性を収めたモノクロの写真集で、撮影日・出産予定日・出産日がそれぞれ書かれています。撮影メモとして、生まれた子どもの性別や体重、何番目のお子さんなのかということも、記されていますね。
――本当に出産記録をまとめたみたいですね。
藤井:100人もの妊婦が被写体になっているのですが、これだけの数の妊婦さんを1冊に収めた写真集も珍しいです。本書は1995年に出た写真集ですが、あとがきには“妊婦の写真は、いわば「タブー」でした”という記述もあります。
――確かにマタニティーフォトというのは、ひと昔前は海外セレブが撮ってかなり話題になるような写真でしたよね。最近は一般の方もわりと撮りますけど。
藤井:ちなみに、野寺氏は『遺影、撮ります。―76人のふだん着の死と生』(圓津喜屋)という写真集も出しており、やはり生と死というテーマに興味・関心があるのでしょう。
――それぞれ、対極なようで密接なテーマですよね。
藤井:ほかに90年代に出された女性写真家の出産写真集には、宮崎雅子氏の『胎動 SIGN OF LIFE』(東京音楽社)もあります。彼女は妊婦や出産にまつわる写真集を数多く出していますが、本書には病院ではなく、自宅や助産院で助産師のもと、子どもを産んだ女性たちの写真が収められています。