なぜこんな悪辣な産業を優遇するために、国民全体に円安による購買力の低下という多大な犠牲を強いるのか、まったく理解不能です。
ひとつ考えられるのは、企業内だけではなく日本社会全体にも「年功序列」的な秩序があって、1970~80年代の花形産業だった輸出主導型製造業各社の経営陣はいまだに経団連などの圧力団体を牛耳っていて、政府・日銀もその秩序に従っているということでしょう。
わかりきっているのは、製造業各社は内部留保でかなり巨額の支出をまかなえるし、非製造業各社は苦しい懐から頑張って設備投資をしても、それに見合った労働生産性の上昇を期待できないことです。
こんな経済環境で、いったいだれが「低金利にすれば景気を刺激することができる」と思うでしょうか?
ほんとうに不思議ですが、一流大学を優秀な成績で卒業した政府の官僚や日銀の幹部職員が十年一日どころか二十年一日、三十年一日でそういうムダな政策に巨額の資金を注ぎこんでいるのです。
日本のみならず世界中でそれが壮大なムダであることは、次の10ヵ国プラスユーロ圏の実証研究で証明済みなのですが。
上段は、中央銀行がいくら金融業界から金融資産を買って現金をばら撒いてやっても、そのカネは金融業界の中であぶく銭があぶく銭を追い回すバブル循環に寄与するだけで、非金融企業への融資にはつながらないことを示しています。
むしろ、本来なら非金融業への融資に回すはずのカネまで、このバブル循環に巻きこんでしまって、完全な逆効果なのです。
下段は、現金が金融業界の外に回らなければ、国内需要を活性化する効果もないことを明示しています。スイスのように国内需要が非常に小さいので、意識的に金融立国を目指してきた国ならともかく、日本のように内需の大きな国が採るべき道ではありません。
結果は、世界一高い国債を日銀が一手買い次の2枚組グラフのうち、まず上段にご注目ください。
債券の利回りと価格のあいだには、利回りが高ければ高いほど価格は安いという明快な逆相関関係があります。
同じ金額の元手で金利収入を得ようとすれば、利回りの高い債券を買ったほうが金利収入が大きくなってお得、つまり利回りの高い債券は価格が安いということです。
それにしても日本国10年債の、10年間持ちつづけても満期償還では必ずマイナスの利回りになるというのは、無限大の高値ということになります。いったい、だれがこんなにバカ高い債券を買うのかというと、もうおわかりですね。
超低金利が景気刺激になると信じ続けている日本銀行ぐらいしか、そこまで高い買いものをする愚鈍な投資家はいません。
というわけで、長期の日本国債は日銀の一手買い状態が続いています。
ですが、日銀に国債を買ってもらって現金収入を得た金融業界としては、日本国内では融資先が見当たらないのです。製造業は設備投資をサボっても円安で利益が伸びる、非製造業は金を借りて投資をしてもほとんど見返りがない・・・・・・。
そこで、最近の日本の金融業界は3大メガバンクを中心に海外に投融資先を求めています。
3大メガバンクが、みずほまでふくめて純金利収入で回復の兆しが見えるのは結構なことですが、超低金利が続く日本国内では安定した利ざやは稼げないので、海外投融資を増やしたからこその、収益好転なのです。
下段を見ると、日本銀行業界の対外直接投融資+有価証券保有残高が、金融片肺飛行のイギリスばかりか、世界最大の金融市場を持つアメリカも抜いてしまったことに驚きます。
ふたつ懸念要因があります。
ひとつは、今後波乱万丈が予想される国際金融の世界で日本の大手銀行はとうてい危ないところからは一刻も早く逃げるといった敏捷な行動ができる組織ではないことです。
もうひとつ、もっと大きな懸念はこうして対外投融資に回しているカネは、最低限元本が無事なまま、日本の内需を振興するために帰ってこられるのかということです。
日本の勤労者たちが無期限ゼネストでもしないかぎり、政府・日銀・往年の花形企業・金融業界の既得権益を打ち破って、円安から円高への転換を達成するのはむずかしいのではないでしょうか。 ■
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編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2023年7月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。
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