NHKより

他の被告会社への「有罪印象操作」が行われた森氏初公判

7月5日、東京五輪談合事件で起訴されている大会組織委員会の元次長森泰夫氏の第1回公判が開かれ、「間違いありません」と起訴内容を認めた。この事件では、電通や博報堂など広告会社・イベント会社6社と、その幹部ら7人が、東京五輪大会のテスト大会と本大会の会場運営等をめぐる2018年の入札で、あらかじめ受注業者を決めて「事業活動を相互に拘束し競争を実質的に制限した」として独占禁止法違反の罪に問われている。

通常、自白事件であれば、第一回公判で検察側立証に費やす時間はせいぜい30分だ。ところが、この事件では、傍聴席に詰めかけたマスコミの前で、検察側冒頭陳述に50分、検察官請求証拠の「要旨の告知」で100分という異例の長時間が費やされた。

これを通して、森氏と同時に逮捕・起訴され、まだ公判が始まっていない7社及びその役員等、事件全体への「有罪印象操作」が行われ、それが、検察の意図どおり、マスコミに大きく報じられた。この中には、全面否認して無罪を主張している株式会社セレスポ、株式会社フジクリエティブコーポレーション(FCC)の2社と同社幹部も含まれる。

元次長は電通側と情報交換するなどして会場ごとの受注予定企業をまとめた「割り振りリスト」を作成。各社の幹部と入札前に個別に面談し、リストに基づき受注予定を事前に伝えたと指摘した。自らの手で大会を成功させ、地位や名誉を保持するために受注調整を進めた。

森被告はある業者から、バスケットボール会場の落札希望を伝えられると「バスケは電通でしょ」と述べて入札参加を断念させたほか、別の業者からはメールで「電通様のお口添えもあり話が前に進みました」と報告を受けていた。

入札が実施された26会場の大半は、割り振り表通りの結果に。被告6社の売上高は約20億~約104億円に上り、売り上げから原価を差し引いた粗利益が最も高かったのは、イベント大手「セレスポ」で約52億円だった。

などと報じられれば、誰しも、東京五輪大会の裏で、悪質・露骨な談合が行われ、業者が暴利を貪ったと思うだろう。

しかし、検察冒頭陳述、要旨の告知に続いて行われた森氏の被告人質問についての記事では、

森被告は弁護側から違法性の認識を問われ、「違反の不安を抱えながらも、目の前の状況を解決して大会を成功させるためどうするかにとらわれていた」と説明した。

謝罪の一方で、「受注調整をしなければ現場は本当に大きな混乱になったと思う」と話し、法に触れず大会を成功させるにはどうしたらよかったかとの質問には、「今もどうしたらできるんだろうと…」と考え込んだ。

などとも報じられている。

このような森氏自身の供述内容を見れば、森氏が罪状認否で公訴事実について「間違いありません」と述べているのが、罪を認めたというよりは、罪を犯したとは思っていないのに、事実を認めざるを得なかったことが推測できる。

この記事では「約104億円に上る売り上げから原価を差し引いた粗利益が最も高かったのは、イベント大手セレスポで約52億円」などとされているが、これは、イベント制作会社セレスポは、一人の社員が同時に複数の案件を手掛けることが多いため、案件ごとの売上総利益(粗利)の算出において、社員の人件費を個別の案件の売上原価に配賦していないことによるものであって、多くの業務を下請に出す会社と比較することはできないはずだ。経費の多くが、決算の際に差し引かれる「本社経費」となっているために、各案件の形式上の売上総利益及び売上総利益率(粗利率)は、自ずと高くなっているにすぎない。