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ジャワ島の伝統芸能と神話
伝統工芸と伝統建築のフォルム

ジャワ島の伝統芸能と神話

ヘット・シップ博物館では2022年12月1日から2023年8月27日まで、『インドネシアとアムステルダム派』展が開催されています。オランダが17世紀から3世紀にわたって植民地支配した東インド(現在のインドネシア)の芸術や文化が、アムステルダム派に与えた影響を、数多くの作品とともに紹介しています。

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

まず目を引いたのは、インドネシアのジャワ島で行われている伝統的な影絵芝居「ワヤン・クリ」や、ジャワ島の神話からの影響です。

ワヤン・クリで背景的な役目をする「グヌンガン」は、山をイメージした造形物で、上部が尖った団扇のような形をしています(左写真/ヘット・シップ博物館蔵)。スパールンダマープラントスーン広場の南側の集合住宅の壁面には、グヌンガンの形をしたレンガの装飾がほどこされています(右写真)。

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

ワヤン・クリの劇中で、山や宇宙、火や風など多くのものを表すグヌンガンには、宮殿の門(左写真の青い扉)や、ジャワの神話に登場するカラ(左写真の上部の顔)、生命の樹など、様々なモチーフが描かれています。

集合住宅には、グヌンガンに描かれた門と同じ配置のドアがあり、その上部にはカラの口と舌を模した彫刻がでデザインされています(右写真)。生命の樹のように枝を広げたような装飾もあり、面白いように類似点が見つかります。

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

1900年のパリ万国博覧会に出品された「ジェンパナ(インドネシアのヒンズー教の伝統行事に使われる駕籠)」の両脇には、インド神話に起源をもつ蛇の精霊ナーガの装飾がほどこされています(上写真/熱帯博物館蔵)。

中国の龍信仰にも影響を受け、龍のような胴体をもつナーガは、橋や階段の手すりとしてもデザインされてきました。金メッキで覆われたジェンパナは神々しく、屋根の頭頂部には、蓮のつぼみの装飾がほどこされています。

1915年にアムステルダム市立美術館で開催された展覧会で、この神秘的なジェンパナを目にしたデ・クレルクは、3ブロック目の集合住宅となるヘット・シップの建物全体を、ジェンパナに見立てて設計しました。

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

ヘット・シップの煙突はナーガの頭部を、波打つような瓦屋根は胴体を表現しています。建物の東西に2柱のナーガが鎮座し、ジェンパナと同じ構成です。神々しい黄金の色彩は、オランダ北東部のフローニンゲンから取りよせた、オレンジ色のレンガで再現されました(上写真)。

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

ジェンパナの蓮のつぼみは、象徴的な塔に生まれ変わっています(上写真)。

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

広場南側の集合住宅にも、ナーガの胴体を表現した赤色の装飾があります(上写真)。

伝統工芸と伝統建築のフォルム

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

アムステルダム派の建築は、レンガを美しく積みあげた有機的な表現が特徴です(左写真)。デ・クレルクやクラマーはインドネシアの伝統工芸(右写真)に発想を得て、多様なアレンジメントを生みだしました。建築とは全く関係がないと思われる、木の皮や竹を編んだ細工にヒントを得て、レンガの新しい用法を見出したのです。

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

インドネシアの伝統的なろうけつ染め布地「バティック」もまた、インスピレーションの源となりました。バティックの表情豊かな模様は、時計などの調度品に取り入れられています(上写真)。

思いがけない文化融合『インドネシアとアムステルダム派』展
(画像=『たびこふれ』より 引用)

「ミナンカバウ」は西スマトラ州のミナンカバウ族の伝統建築で、複数の切妻と、帆船のような尾根が特徴です(左写真/ライデン大学図書館蔵)。1920年に建設された集合住宅「ダーヘラード」では、ミナンカバウの曲線が表現されています(右写真 ©Marcel Westhoff)。