ベルクソンの箴言

今から91年前に73歳のベルクソンは、その代表作『道徳と宗教の二つの源泉』で次のようにまとめている。

「人類は今、自らのなしとげた進歩の重圧に半ば打ちひしがれて呻いている。しかも、人類の将来が一にかかって人類自身にあることが、充分に自覚されていない。まず、今後とも生き続ける意志があるかのどうか、それを確かめる責任は人類にある」(ベルクソン、1932=1979:539)。

「少子化」は日本と日本人の将来を左右するが、そのためにわれわれは「必要な努力を惜しまぬ意志があるのかどうか」(同上:539)。

「少子化対策」を含めた「社会資本主義」を目標にして、「人口変容」関連でいえば、財源論も含む高齢化対応で成功した「介護保険」制度をお手本にした「社会全体」の正確な定義、およびその実行に尽きるのではないか(金子、2023c)。

『社会資本主義 人口変容と脱炭素の科学』(ミネルヴァ書房)

注1)「こどもの日」のマスコミの「少子化」報道姿勢については金子(2023b)に詳しい。

注2)「共働き・共育ての推進」は6月7日発表の『経済財政運営と改革の基本方針2023(仮称)(原案)』(以下、『骨太の方針原案』)では用いられなかったが、6月16日閣議決定された『経済財政運営と改革の基本方針 2023 について』(以下、『骨太の方針』)で登場した。

注3)この『新しい資本主義案』の解説と問題点は金子(2023c 第Ⅰ部第3章)に詳しい。

注4)私の「子育て基金」は「子育て共同参画社会」の理念の下で、社会全体からの基金を子育て支援に回すというものであった。アゴラでは「政治家の基礎力⑥:家族と支援」(2022年5月30日)で紹介したが、実際に「子育て基金」は『都市の少子社会』(2003)から使い始め、『少子化する高齢社会』(2006)でA案、B案、C案を並列的に示して、それぞれの財源とそこから得られる基金総額を提示した。この提唱は、『日本の子育て共同参画社会』(2016)まで続けたが、各方面からの反応はほとんどなかった。

注5)このような扱い方は、「自由で多様な社会」とは異なるのではないか。

注6)表3の総計と①から④までの合計が一致しないのは、対策事業が重複して数えられているからである(『令和4年版 少子化社会対策白書』:192)。

注7)選挙を意識した政治的決定ではなくて、学術的決定でこれを行いたい。

【参照文献】

新しい資本主義実現会議,2022,『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現』(案)同会議 . Bergson,H.,1932=1948,Les deux sources de la morale et de la religion,(Presses Universitaires de France.(=1979 森口美都男訳 「道徳と宗教の二つの源泉」澤潙久敬責任編集『世界の名著 64 ベルクソン』中央公論社):215-539. 閣議決定,2023,『経済財政運営と改革の基本方針 2023 加速する新しい資本主義 ~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~』. 金子勇,2003,『都市の少子社会』東京大学出版会. 金子勇,2006,『少子化する高齢社会』日本放送出版協会. 金子勇,2016,『日本の子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房. 金子勇,2023a,「少子化対策の『異次元』確定に向けて」アゴラ言論プラットフォーム 1月18日. 金子勇,2023b,「マスコミの『少子化』報道姿勢」アゴラ言論プラットフォーム 5月13日. 金子勇,2023c,『社会資本主義』ミネルヴァ書房. Kotlikoff,L.J.,1992,Generational Accounting,The Free Press.(=1993 香西泰監訳 『世代の経済学』日本経済新聞社). Michel de Montaigne,1588,Les Essais de Michel de Montaigne,(éd.)p.Pierre Villey,Paris,Felix Alcan.(=1966 原二郎訳『モンテーニュⅠ』筑摩書房). 内閣府,2022,『令和4年版 少子化社会対策白書』日経出版. 野田聖子・古川康・金子勇,2007, 「少子化を真面目に考える座談会」『読売ウィークリー』第66巻第10号 読売新聞社:88-92.