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名機と呼ばれた理由は、「純正部品が宝の山!」
メーカー純正チューンドから社外DOHCヘッドまでアリ!

名機と呼ばれた理由は、「純正部品が宝の山!」

「日産の名機」日産L型エンジンとは?仕組みや搭載車を紹介!
(画像=1965年、2代目日産 セドリック(130系)の「スペシャル6」へ初搭載されたL、20エンジンSUツインキャブ仕様,『MOBY』より 引用)

プリンスG7やトヨタM型へ対抗し、急きょ開発された直6のL型

ただし平凡な実用エンジンという顔は、L型の一面に過ぎません。

L型はもともと直4のL14、L16(ブルーバード用ですね)を先行開発していたものの、1963年にプリンスが2リッター直6SOHCの「G7」をグロリア スーパー6に搭載、「トヨタもクラウンへ積む直6SOHCの新型エンジン(後のM型)を開発中」という情報が入ります。

日産も2リッター直6OHVの「J20」を開発していたものの、ライバルへの対抗上、直6SOHCエンジンが必要になり、直4のL型は一旦棚上げしてシリンダーブロックやシリンダーヘッドの設計を転用、2気筒追加した直6SOHCエンジンを急きょ開発しました(※)。

(※その際、メルセデス・ベンツ──直6のM180系か、それを直4化したM121、いずれにせよ吸排気の向きが同じターンフローのSOHCエンジン──を参考にした説もあり、事実なら同じくメルセデス・ベンツを参考にしたプリンスG7とは「異母兄弟」のような関係です。)

モジュラー設計で部品互換性を持つ直6と直4のL型

最初期の2リッター直6SOHCエンジン「L20」は、1965年に2代目セドリックの最上級グレード「スペシャル6」でデビュー(「カスタム6」など他の直6グレードへはOHVの「J20」を搭載)、1966年に合併したプリンス系のグロリアやスカイラインにも搭載します。

この初期型「L20」は急いで開発したこともあって未完成な部分もあり、1967年にブルーバード用でデビューした直4版L13やL16と部品共用化を進め、リファインした「L20A」が決定版となって、以後長らく使われました。

その後、排気量違いやディーゼル仕様が作られますが基本設計は同じで、たとえば1.3~1.6リッター直4のL13/L14/L16と、2.4~2.6リッター直6のL24/L26はボア(シリンダー内径)が同じ83.0mmで、L16とL24に至ってはストローク(ピストン行程)も同じ73.7mm。

こうした「サイズの合う他のエンジンのピストンや、排気量違いの純正部品を組み合わせて排気量アップなどチューニングを行う手法」は他社のエンジンでも定番ですが、バリエーションが豊富な日産L型では、組み合わせに使える純正部品が豊富でした。

チューナーに育てられ、チューナーを育てたエンジン

しかも多くの日産車へ使われた実用エンジンのため、純正部品の入手も非常に容易だったうえに、設計思想のひとつに「分からなかったら2倍にしておけ!」があった時代のエンジンで安全マージンも高く、あらゆるチューニングを受け止める懐の深さもあります。

おかげで「チューニングがはかどるエンジン」としてL型は大人気となり、単なる排気量アップからターボ化まで、「L型をイジってないヤツじゃ話にならない」と言われるほど、多くのチューナーを育てました。

余談ですが、L28にLD28用クランクやL14用コンロッド、ホンダのFT500用ピストンを組むチューンの人気が出た結果、「なぜか単気筒エンジンのピストン6台分が注文殺到、FT500の生産数すら超える」という事態に、ホンダが困惑したという逸話が残っています。

メーカー純正チューンドから社外DOHCヘッドまでアリ!

ストリートのチューナーが育てたと言われるL型ですが、もちろん日産でもモータースポーツでL型をフル活用すべく、さまざまなチューンが施されました。

もちろんそれはL型が第一線で活躍した時代の話ですが、その後も社外のチューナーによって、魅力的なチューニングメニューが開発されており、以下にその一部を紹介しましょう。

LRヘッド

「日産の名機」日産L型エンジンとは?仕組みや搭載車を紹介!
(画像=1973年のサファリラリーで総合優勝したダットサン240Z(LR24エンジン搭載),『MOBY』より 引用)

L16を積む510ブルーバードSSSで1970年に総合優勝、L24を積むダットサン240Z(S30フェアレディZ)でも1971年に総合優勝するなど、サファリラリー連覇に大きく貢献したL型ですが、コースの高速化でモアパワーが求められると苦戦します。

そこで1973年に240Zへ搭載したのが通称「サファリヘッド」とも呼ばれるLRヘッドのLR24で、L24の2,393ccに対し2,497ccへと拡大、さらに吸排気ポートや冷却性能の効率化を図ったもので、見事にその年のサファリラリー総合優勝を果たしました。

直6だけでなく直4用のLRヘッドも存在し、1979年にはLR20Bを搭載したPA10バイオレットがサファリラリーで優勝するなど活躍、少数ながら一般ユーザーの手にも渡り、Lメカチューンでは憧れのひとつです。

LYヘッド

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(画像=1973年の国内レースでLY24を積んで戦ったダットサン240ZRの同型車へ、LY28を積んだテストマシン,『MOBY』より 引用)

当初、第1世代スカイラインGT-Rと同じS20エンジンを積む「Z432」でレースを戦ったフェアレディZですが、なんと旧プリンス製エンジンとのマッチングがうまくいかず、振動問題で戦闘力に深刻な疑問が出る状態に。

ならばとL24を積む240Zで参戦してみると非常に扱いやすく安定して速く、GT-Rより上のクラスとはいえ富士スピードウェイの2分切りをいち早く達成(※)。

(※それならスカイラインGT-RにL24積んだらもっと速いんじゃ?と試したらそんなことはなくて、旧プリンス車らしくS20を改良した方が速かった、というオチまでつきます)

これに勢いを得た日産は、GT-R引退後もZにマツダロータリー軍団への対抗馬をまかせるべくLYヘッドを開発、L24に組んだLY24を積んだZで1973年のレースシーズンへ挑み、L28の排気量を2,870ccまで上げてクロスフロー化、最高出力300馬力を叩き出すLY28も作りました。

しかしオイルショックでその年をもって日産はレースへのワークス参戦から撤退、LY28を積むZでサバンナを蹴散らす夢は潰えたのです。

なお、このLYヘッドも少数ながら販売しており、現在も使用している一般ユーザーがいます。

LZヘッド

「日産の名機」日産L型エンジンとは?仕組みや搭載車を紹介!
(画像=1978年のWRCオーストラリア・サザンクロスラリーで総合優勝した日産PA10バイオレット(参加名ダットサン スタンザ・LZ20B搭載),『MOBY』より 引用)

WRC(世界ラリー選手権)を戦うPA10バイオレットやS110シルビアがベースの240RS初期、さらにターボを組み合わせ、シルエットフォーミュラやグループCレースでの活躍を支えた音が、L型の直4にDOHC4バルブヘッドを組み合わせた「LZヘッド」。

WRCだと日本では一般にスポーツイメージ皆無のバイオレットだったので、LZ20Bを積んで活躍したといっても地味でスルー気味ですし、240RSの初期に積んでいたLZ24Bもマイナーですが、シルエットフォーミュラでの活躍は知っている人も多いと思います。

R30スカイラインRSターボのシルエットフォーミュラがマフラーエンドから猛烈な炎を上げている勇ましい写真が有名どころですが、アレはFJ20ETじゃなくLZ20Bターボでやってたんです。

OS技研TC16/TC24

「日産の名機」日産L型エンジンとは?仕組みや搭載車を紹介!
(画像=OS技研TC24のベースエンジン、L28(画像は430セドリック用のL28E),『MOBY』より 引用)

残念ながら日産は直6用のLZヘッドは作りませんでしたが、DOHC4バルブ仕様のLメカチューンが欲しい!

そこでOS技研が1980年に、直4のTC16-MAII(L18改1,918cc)と直6のTC24-B1(L28改2,870cc)、2種類のDOHC4バルブヘッドを開発しました。

LRやLY同様に高価だったので、当時はほとんど購入する人もおらず、TC24-B1など数基しか売れなかったそうですが、後に同社内の倉庫で発掘されたTC24をレストアしてイベントなどで走らせたところ人気となり、2012年に復刻&改良版TC24-B1Zを発表。

1980年版は325馬力でしたが、2012年版は9,000回転までブン回して420馬力、許容回転数10,000回転という「ホントにLメカ?」というスペックに達する化け物エンジンであり、1980年版よりも売れたようです。

RBヘッドなど

「日産の名機」日産L型エンジンとは?仕組みや搭載車を紹介!
(画像=画像はR31スカイライン用のRB20DETだが、こんな感じのヘッド周りをそっくりL型へ移植するハイブリッドチューンもある,『MOBY』より 引用)

他にもOS技研のように独自のDOHCヘッドを作ってしまうチューナーや、亀有エンジンワークス(昔の人なら「カーショップ亀有」の方が馴染みがあるかも?)など、廃盤部品を独自に、それもただの復刻ではなく強化品など販売しているショップも数多くあります。

中には「別物と言っても生産設備を活用できるようL型との共通点も多いからイケるだろう」ということか?あるいは最新チューニングキットの流用を容易にするためか、RBエンジンのヘッドを使ってDOHC化したL型も。

ここまで来ると普通にRBでいいんじゃ?と言いたくなりますが、何十年もの歴史を重ねたL型のノウハウに、RBをハイブリッドすることで新たなL型チューンの道が開けるようで、まだまだL型チューンの沼は底なしなようです。