レーシングキャブレターを装着するとエンジンの性格は激変する!
バイクのエンジン性能を高める手法のひとつに吸排気系のチューニングがある。排気はマフラーの交換で、吸気は現行モデルであればインジェクションコントローラーによってガソリンの吐出量を調整するが、キャブレター車の場合はノーマルよりも充填効率が高いレーシングキャブレターに交換するという手法がある。



レーシングキャブレターの効果は非常に高い。誰にでもどんな季節でも扱いやすく設定されているノーマルキャブレターに比べると、車種や季節にあわせたセッティングが必要だとか冷間時の始動にコツがいるなど制約はあるものの、セッティングが決まったときにはノーマルキャブレターを大幅に上回るレスポンスの良さとパワーアップが実現する。その変化具合はインジェクション車よりも大きいことが多い。
そこに魅力を感じているライダーが多いのは事実だ。



レーシングキャブの維持はノーマルキャブよりシビア
大幅なパワーアップが期待できる反面、セッティングやメンテナンスなど気を使うことが多いレーシングキャブレター。レースでは頻繁に整備するので問題ないが、ストリートで使う場合は定期的なメンテナンスが必要となる。それもキャブレターに詳しい専門家にやってもらうことが望ましい。年間通して気軽に使い続けられるノーマルキャブレターとは根本的に違うモノである。
パワーアップの代償でもあるので致し方がない話ではあるが、これから導入を考えている人は意識したほうがよいことだろう。

実はFCRキャブレターには長期間使っていると発生する弱点がある。それはキャブレター本体の中でアクセルワイヤーによって上下に動く浮動バルブ(スライドバルブ)の構造に由来するもの。
浮動バルブの横には負圧(空気の流れ)によって本体の溝に張り付く(スムーズに動かなくなる)ことを防ぐローラーが4個付いている。

時間が経つとそのローラーが本体の溝部分に凹みを作ってしまうのだ。
もちろん数年、数千キロ走った程度ではびくともしない。しかし十数年とか、何万kmといった長期間使い続けると写真のような凹みができてしまう。


こうなるとその凹みに浮動バルブが引っかかってスムーズに動かなくなる。するとアイドリングが不安定になったり、アクセル操作が部分的に重くなったり、レスポンスが悪くなって息をついてしまうなどの悪い現象が起きてしまう。構造上の持病のようなもので、こうなると本体を交換する=新品に買い換えるしかなくなってしまう。
レーシングキャブレターはその名の通りレース用に開発されたものなので、定期的に専門家がメンテナンスし、不具合が出たら交換するというスタンス。ストリートで長期に渡って使った場合の耐久性までは考慮されていないと考えてもいい。そのあたりはノーマルキャブレターの方に分がある(もちろんノーマルキャブでも摩耗する部品はあるが、はるかに長期間安定したパフォーマンスを維持するし、部品交換もしやすく設計されていることが多い)。
しかしレーシングキャブレターの高性能を一度味わってしまうとそれを手放すのは惜しくなる。だが不調のまま使い続けたくはないし、もう一度新品を買うのはコスト的にも厳しい…。
オーナーとしては悩ましいところだ。