一般人のマルチに関する知識は全然足りない

 マルチ商法は、特定商取引法により規制されている販売形態だ。そのため違法ではないものの、いくつかの違反行為を行うと取引停止に追い込まれる可能性がある。

「主に5つの違反行為が考えられます。1つ目は氏名などの明示義務違反。2つ目は勧誘目的などの不明示、および公共の場での勧誘。企業名や勧誘の目的を告げていない場合はアウトになります。たとえば、疎遠になっていた友達から『久しぶりに会えないか?』というメッセージが来て、社名も目的も告げずにいきなりマルチ商法の勧誘をされたり商品を売りつけられたりした場合、その時点で違法になるんです。

 3つ目に虚偽の説明、不実告知をすること。商品の効果を誇張したり、『確実に稼げる』と言ったりするなど事実とは異なる発言をすることは禁じられています。4つ目は迷惑勧誘をすること。消費者に圧をかけるかのような文言や、強い口調など消費者に心理的負担をかけるような発言は違法になるんです。職場や学校の先輩、後輩間で商品を購入させるために恐喝したというケースはよく聞く話です。5つ目に概要書面の交付義務違反。連鎖販売業(マルチ商法)であることを明示したうえで勧誘しないと違法になります」(同)

 上記の違反行為をすれば、アムウェイのように業務停止、禁止命令が課せられることがある。また不実告知があれば、2年以下の懲役、または300万円以下の罰金、もしくはその両方が課せられることもあるそうだ。しかし、こうしたマルチ商法の基礎的な知識が消費者には枯渇していると西田氏は苦言を呈す。

「アムウェイは昨年に初めて取引停止命令を下されましたが、逆にいえばこれまでそういった対処を受けたことがなかったということ。そもそもマルチ商法がどんな仕組みでどの行為が違法に該当するのかや、『ねずみ講』との区別などがわからないという人々が大半だと考えられます。もう少しマルチ商法に関する知識が世の中に周知されていれば、あれほどアムウェイは肥大化しなかったでしょうし、被害数も減らせていたでしょう。事実、マルチ商法関連の法案の整備も利用者側に即していないものが多く、学校や地域で開催されるセミナーも被害防止の策には確実に効果的とはいえません」(同)

 そんなマルチ商法の被害に遭わないためには、できるだけ証拠を残すことが大事だ。

「できるならば、スマホの録音アプリやICレコーダーなどを用意して録音しておくのが手っ取り早いでしょう。録音データに強い口調や不実告知などの証拠があれば、それだけで違法性を立証できる可能性は広がります。それが無理なのであれば、なるべく信頼できる友人や家族に同席してもらったうえで証言を多く獲得しておきましょう。裁判になったときに違法性のある行為、発言についての証言を少しでも残しておけば、多数決で勝訴できる可能性もあるので、心配な人は親しい人に付いてきてもらうこともひとつの手です」(同)

 万が一、マルチ商法に引っかかり商品を購入してしまったとしても、20日以内であればクーリング・オフによって契約を解除することも可能だ。また不実告知、虚偽の証言があった場合には、20日以上経過してもクーリング・オフできることがあるので、証拠は集めておくに越したことはない。