<例>

<例1> A:昨日B君は僕に嘘をついた。 B:嘘なんてついてない。 A:誤魔化すな。C君も聞いていたはずだ。 C:そんな覚えはない。 D:B君は嘘をついてなかったと理解しました。

<例2> A:昨日B君は僕に嘘をついた。 B:C君、今日どこで遊ぼうか。 A:B君は誤魔化さないで答えろ。 C:B君、ゲーセンにしようか。 D:それなら私も一緒に行く。

しばしば事実の隠蔽には、事実による被害者(A)、事実の加害者(B)、メディア(C)、大衆(D)というステイクホルダーが存在します。この場合、加害者とメディアは事実を隠蔽することで利益を分かち合う共犯関係となります。Aの主張を真としてCをメディアに置き換えれば、<例1>の行動は「虚偽報道」、<例2>の行動は「報道しない自由の行使」ということになります。

<事例1>ジャニー喜多川氏の性加害の隠蔽

<事例1>カウアン岡本氏会見 2023/04/14

NHK記者:お伺いしたいのは、カウアンさんは一連の被害について「知らずに入所した」ということなんですけど、もし当時、大手メディアが報じていたら、ご自身の選択は変わったと思いますか。例えばジャニーズに入所すること自体、ためらったであるとか、そういった選択は変わったと思いますか。

カウアン岡本氏:「もし取り上げていたら入るか入らないか」って言われたら、その時になってみないとわかんないですけど、まぁきっと、もしテレビが当時取り上げていたら、大問題になるはずなので、多分親も行かせないと思いますし、15歳の未成年なので、僕の判断だけでできないですし、どっちの角度から見ても、多分なかったんじゃないかなと思います。

ジャニーズの所属タレントだったカウアン岡本氏は、未成年であった自分に対するジャニー喜多川氏の性加害を会見で告発しました。

ジャニー喜多川氏の性加害の疑惑については、1965年『週刊サンケイ』の記事、1988年の北公次氏の告発本、1999年からの『週刊文春』のキャンペーン報道があり、2004年には最高裁で性加害が事実認定されました。

しかしながら、この事実をテレビは報道しませんでした。これは、業務上の優良コンテンツとなる圧倒的な数の「アイドル」タレントをマネジメントしたジャニーズ事務所が「数の力」による独占的なエージェント活動を繰り広げた結果、テレビがジャニーズ事務所の意向に忖度する存在となり、不都合な情報を報じなかったものです。テレビは報道の自由を完全に放棄することで、加害者を隠蔽し、被害者を絶望させ、大衆を騙したのです。

<事例2>報道の自由度ランキング

<事例2a>「私たちは怒っています」会見 2016/02/29

青木理氏:今回の放送法発言、それから同時に岸井さんに対しての意見広告とか政権側、あるいは政権の応援団の方々がメディアとジャーナリズム、あるいはテレビ報道の原則っていうのを非常に不当な形で攻撃してきているという事実を、)僕は本当に真剣に受け止めて、これは黙っていられないという思いでここに来ました。このままどんどん押し込まれてしまうと、本当にメディアとジャーナリズムの原則が根腐れしかねないなという危機感を僕自身、抱いております。それが僕の、ここに来ている思いであります。

大谷昭宏氏:今、私実は、東日本大震災の被災地の女川から今朝、大急ぎで帰ってきたところでして、週末ごとに今、被災地に入っています。被災地に入って、こういう問題がいろんなところで影響を与えてるんだなっていうのを如実に感じるのは、われわれが取材に行って、例えば原発の取材に行く、あるいは非常に復興が進んでいるという報道をしにいくと。本当に復興が進んでるところもあるんで、その点が1つ女川にもあるわけです。しかしそれを放送したいと言って、申し上げると復興がなってないのにあなた方はそういう報道をさせられているんだろうと。福島の除染が進んでるだろうという、報道をさせられに来ているんだろうという意識が、被災者の皆さん、非常に強まってるんです。これは阪神・淡路大震災のときに全くなかったことです。そこまでつまりわれわれはもう、手先になってるんだろうと思われるような事態が来てしまっている。

金平茂紀氏:今、日本のメディアが海外からどう見られてるかっていうと、2015年の世界の報道の自由度ランキングっていう、これはパリにある国境なき記者団っていうところが毎年発表しているものですけども、日本は今、61位です。61位です。180国のうち61位というそういう今、ポジションにいます。僕はとてもこれは恥ずべき事態だというふうに思います。戦後の今、日本のテレビ報道の歴史っていうのを自分なりに勉強しなおしてるんですけれども、やっぱり今、感じるのは、今という時期が特別に息苦しい時期だろうなというふうに思います。その息苦しさっていうのが、さっきのアピール文にありましたように外からの攻撃で息苦しくなっているっていうんであればいいんですが、どうもその息苦しさの原因っていうのが内側、メディアの内側とかあるいはジャーナリストの内側のほうに生まれてきているんじゃないかという思いがあって、やむにやまれず今日、こういう会見をしようということで、呼び掛けをしたところ、こういう顔ぶれになりました。自主規制とかそんたくとか、あるいは過剰な同調圧力みたいなものが、それによって生じる萎縮みたいなものが、今ぐらい蔓延してることはないんじゃないかというふうに私は自分の記者経験の中から思います。

報道の自由度ランキングにおいて、日本は2012年は22位にランキングされていましたが、2013年のランキングで大きく順位を落として53位となり、その後さらに順位を下げるに至っています。つまり、ランキング低迷の主要因を探るには、31もランキングを落とした2013年の状況を知ることが重要です。

まず、この調査では、2013年に評価基準の大きな変更がありました。2013年の調査報告書によれば、日本のランキング急降下の原因として次のような記述があります。

<事例2b>国境なき記者団『報道自由度ランキング2013報告書』

The reason was the ban imposed by the authorities on independent coverage of any topic related directly or indirectly to the accident at the Fukushima Daiichi nuclear power plant. Several freelance journalists who complained that public debate was being stifled were subjected to censorship, police intimidation and judicial harassment. The continued existence of the discriminatory system of “kisha clubs”, exclusive press clubs which restrict access to information to their own members, is a key element that could prevent the country from moving up the index significantly in the near future.

その理由は、福島第一原子力発電所の事故に関連する話題を独自に報道することを当局が禁止したためである。 公共の議論が抑圧されていると非難した何人かのフリーのジャーナリストが検閲、警察の威嚇、司法のハラスメントに晒された。 また、情報へのアクセスを会員に限定する排他的な「記者クラブ」という差別的システムが存在する限り近い将来にランキングの順位を大きく上げることは困難である。

つまり、日本の報道に対して国境なき記者団が問題視していたのは、①政府による原発報道に対する言論弾圧と、②クラブによるフリーランスに対する言論弾圧です。

まず①については、大谷氏も認めているように、紛れもない捏造です。日本国民なら誰でも知っているように、当時の日本は、反原発のための非科学的捏造報道や原発従事者に対する人格攻撃報道(「原子力ムラ」非難)が来る日も来る日も繰り返されていました。虚偽の事実が日本語を理解できない国境なき記者団に伝わったのです。

一方、②については、外国人記者が被害を受けている歴然たる事実です。原発報道に対する言論弾圧という事実の捏造がバレた現在に至っても日本の報道自由度ランキングが回復することなくさらに落ち込んでいるのは、マスメディアの談合による記者クラブの存在のためです。

ところが、マスメディアは、この事実を隠蔽し、金平氏のように、政権の圧力によってマスメディアが報道の自粛を強いられていることがランキング低迷の原因であるかのような主張を繰り返しているのです。もし金平氏が言うような「恥ずべき事態」を解消したいのであれば、自ら記者クラブを廃止すればよいのです。でも彼らは廃止しません。そこには利権があるからです。

<事例3>ひるおび『小池都知事との握手拒否』報道

[事実の歪曲]で紹介したこの事例は、決定的な「事実の隠蔽」でもあるので、再掲します。

都議選の翌日である2017年7月3日、TBSテレビ「ひるおび」は都議選の結果について話題にしました。司会者の恵俊彰氏から都議選の結果に対する見解を質問されたコメンテイターの三雲孝江氏は次のように回答しました。

<事例3a>TBSテレビ『ひるおび』 2017/07/03

三雲孝江氏:やっぱり初登庁の時のあのイメージの悪かった方達がみんな落ちたというか、あのイメージのまんまちょっと来ちゃったんだなと。

恵俊彰氏:「写真撮らない」って方、落ちちゃったんでしょ。

三雲孝江氏:落ちました。はい。

このやり取りで出演者が取り上げているのは、2016年8月2日に東京都庁に初登庁した小池百合子東京都知事が、川井重勇東京都議会議長に対して知事就任の挨拶に出向いたときに、マスメディアからリクエストされた写真撮影を川井議長が断ったとする事案です。

この当時、ワイドショーはこの他愛もないやり取りの映像を異常なまで何度も繰り返し、川井議長を悪魔化すると同時に小池都知事を東京都庁という伏魔殿にたった一人で切り込んだヒロインであるかのように演出しました。いわゆる『小池劇場』です。

三雲氏の見解は「都知事との写真撮影を拒否すると、イメージが悪い人間として認定されて都議選に落選する」という理不尽な原理に共感するものです。ただ、これは個人の見解であるので表現の自由に守られる発言であると考えます。問題はこの後に展開された報道です。

<事例3b>TBSテレビ『ひるおび』 2017/07/03

アナウンサー:中心人物となるべき人が落選しているんですね。それがこちら中野区の川井都議会議長。まぁ、この川井議長なんですけれども、去年8月小池知事就任あいさつで握手拒否もあったということなんですけれども、それをごらんいただきましょうか。

ここで画面に映ったのが、都庁内において川井議長に歩み寄る小池都知事の姿です。体の後ろに手を組む川井議長に対して、小池都知事は手を差し出したところで画面が切り替わり、小池都知事はひきつった笑顔を見せながら差し出した手を元に戻しました。

時事通信社の報道映像のスクリーンショートを引用

すなわち画面を見る限り、小池都知事は握手を拒否されているように見えます。そして報道陣が「記念撮影などを・・・」というリクエストを出すと川井議長は「あなたの要望に応える必要はないんだから」と回答し、記念撮影なしに小池都知事が戻っていく映像が映し出されました。この映像を受け、スタジオの出演者は、川井議長の人格を徹底的に貶めました。