特別控除額が2,000万円になる場合も

冒頭で、空き家特例は相続によって取得した空き家を売却して利益(譲渡所得)が出ても、3,000万円までは課税されないと説明しました。これは共有で相続した空き家を売却した場合でも、相続人1人当たり3,000万円までは課税されません。

空き家売却利益が7,500万円の場合

一人で相続した場合 売却利益7,500万円-特別控除額3,000万円=課税対象額4,500万円 課税対象額4,500万円×長期譲渡所得適用税率20.315%=納税額9,141,750円

三人で均等に相続した場合 売却利益7,500万円×1/3(人数)=一人当たりの売却利益2,500万円 一人当たりの売却利益2,500万円-特別控除額3,000万円<0 納税なし

このように、空き家を複数人で相続すれば納税額を0円にすることもできるわけです。

しかし、令和5年度税制改正により6年1月11月1日以後の売却では空き家を取得した相続人の数が3人以上である場合、特別控除額を2,000万円とするとされました。おそらく目に余る事例があったのでしょう。

3人で均等に相続した場合、控除額が2,000万円となると一人当たりの納税額は101万5,750円となります。

空き家特例の対象となる売却代金1億円以下とは

空き家特例の要件の一つに「売却代金が1億円以下であること」というものがあります。

特に、分割して売却したり、共同で相続した空き家の売却時期が他の相続人と異なる場合は注意が必要です。空き家特例の適用を受ける場合における売却代金が1億円以下であるかどうかの判定は、最初に譲渡をした日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に分割して売却した部分や他の相続人が売却した部分も含めた売却代金により行います。

このため、空き家特例の適用を受けていた場合であっても、空き家を売却した日から3年を経過する日の属する年の12月31日までにこの特例の適用を受けた空き家の残りの部分を自分や他の相続人が売却して売却代金の合計額が1億円を超えたときには、その売却の日から4ヶ月以内に修正申告書の提出と納税が必要となります。

取得費加算とは併用不可

相続した土地や建物の売却では「取得費加算の特例」も適用できます。

取得費加算の特例は、相続発生から3年10か月以内に売却した場合に、相続税額のうち一定金額を取得費に加算して税額を軽減することができます。

ただし、空き家特例との併用はできません。空き家特例と取得費加算の特例とはどちらか一方の選択適用となります。

どちらの特例が有利になるかの判断基準として、相続税の納付額が3,000万円未満の場合は、取得費加算額も3,000万円未満となるため、空き家特例が有利となります。多くのケースで空き家特例の方が有利になると思われます。

おわりに

京都市では、市街化区域内の空き家等に対して令和8年以降にも新たな税金が導入される見通しとなりました。今後も空き家は増加すると考えられ、他の自治体もあとに続く可能性があります。

当初、空き家特例の適用期限は令和5年12月31日までとなっていましたが、4年延長されることになりました。利用予定のない空き家を所有している方は、売却することも検討してみてはいかがでしょうか。

古尾谷 裕昭 税理士 ベンチャーサポート相続税理士法人代表税理士 1975年生まれ、東京都浅草出身。2017年にベンチャーサポート相続税理士法人設立。相続専門の司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社・保険販売代理店・金融商品仲介業者からなるベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を代表税理士として率いている。10万人のチャンネル登録者数のYouTube『相続専門税理士チャンネル』を運営。

相続税を払った上に譲渡所得税。なんとかならないの?(古尾谷 裕昭 税理士) 税制改正で変わる2つの贈与ルール、結局どちらが有利なのか?(古尾谷 裕昭 税理士) 税制改正で2,500万円まで贈与が非課税に(古尾谷 裕昭 税理士) 定番の相続税対策「暦年贈与」の効果が今後は薄まる理由(古尾谷 裕昭 税理士) 実はおススメしない教育資金一括贈与特例(古尾谷 裕昭 税理士)

編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年6月2日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。