モータースポーツのテンロククラスで大勢力を誇ったEK9

ただ、EK9が最初から「最強のシビック」としてもてはやされたかというと、少々事情は異なります。
エンジンはパワフル、EK4の4穴に対して5穴ホイールと見た目にも強化され、エアロパーツも装着、ホンダの赤バッジをきらめかせるのは魅力的でしたが、サーキット走行に重きが置かれて固めたフロントスタビライザーによりEK4に軽快性で劣る、という話はありました。
要するに「スタビが突っ張って曲がりにくい」という評価でしたが、弱点がわかればパーツ交換すれば済む話ですし、そうした対処法も同時に広まったので、大きな問題となりません。
また、チューニングせずともセッティングや走り方次第で何とかなる話でもありましたから、ジムカーナでは当時改造範囲がグループAマシンばりに広かった「A車両」で猛威をふるい出します。
さらに、ほとんどイジらずそのまま走っても十分速い!というタイプRの特色がもっとも活きたのは、初心者からでも戦える下位イベントに多かったノーマル車クラスで、安くて速いいEK9で十分楽しめる事から、当時のジムカーナイベントで相当な台数が出場。
もちろん、A車両にせよ、ノーマルにせよ「馴染んだEK4や、旧型でもまだ戦えるEG6で頑張る」というSiR派もいましたが、新規参入や乗り換えではEK9を選ぶのが当然、しかも腕さえ良ければヘタな改造車よりいいタイムを出すのですから、楽しそうでした(※)。
(※天邪鬼でダイハツ党な筆者は、1999年に購入したダイハツ ストーリアX4の改造車で四苦八苦していましたが…)
ストリートスポーツから、街乗りまで全部EK9!

当初はエアコンすらオプションだったので、競技向け以外は気合の入った走り屋くらいだったEK9のユーザーですが、1999年12月にエアコンやオーディオなど快適装備を標準としたうえでお買い得価格(219万8,000円)の「タイプR・X」が発売されます。
こうなると「ストイックな走り専用車」というより「豪華高性能バージョン」という性格も出てきて、競技には出ないし走り屋でもないけど、「単純にカッコイイから」というファッション感覚でEK9を選ぶユーザーも増えました。
そうしたユーザーはEK9であろうと普通にリモコンエンジンスターターなど便利装備を組み込むので、「軟弱」とも言われましたが、それくらい「どんなユーザーでも当たり前のように乗れるタイプR」だったわけです。
まだミニバンやSUVじゃないと女の子が喜ばないどころか、バケットシートなどついている走り系のクルマなんて、ひとりよがりなクルマオタクしか乗らない…なんてイメージがつく前の話ですし、マフラー交換なんてしなくとも十分速いEK9はデートカーとしても好評。
ただ、既にRVブームで5ドア車が当たり前に便利で使い勝手のいいクルマと理解されていた時代ですから、「走りとデザイン以外にイイトコがないシビックタイプR」が若者にもウケた時代というのは、案外短かったと思います。