謝罪動画の公開時点ですでに性加害を認めていた?
筆者は15日に公開した「ジャニー喜多川氏の性加害疑惑を、企業不祥事の視点から考える」の中で、事実関係についてはゼロ回答と書いた。その一方で批判を多数浴びた、社長である景子氏の「知らなかった」発言には「事実であれば」という但し書きが無い。
これは過去の報道や裁判に関する回答ではない。以下の通り「ジャニー喜多川氏の性加害」を「知りませんでした」とある。この書き方もまた性加害の発生を前提としている。
『ジャニー喜多川氏の性加害を事務所、またジュリー社長は知らなかったのか? 知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした。』
とはいえ重箱の隅をつついても仕方ないと思い、この記事では文面の疑問は一旦横に置くと説明してスルーした。しかし26日のリリースでも事実関係について保留している段階にも関わらず、冒頭で書いた通り但し書きもないまま再発防止を連呼している。
改めて読み返すと14日の公式コメントでもすでに再発防止という言葉が使われている。以下の通り、ここでも「事実であれば」という但し書きは無い。その後には「二度と同じような事態を起こさないためにも」とあり、この時点ですでに性加害を認めている。
認めているように読めなくもない……といった曖昧な文言ではなく明らかに認めている。「今回の件を受け」とあるので別の話をしていることも考えられない。この問答だけを読めば多くの人が「いつの間に認めたの?」と驚くだろう。この矛盾は一体なんなのか。
『再発防止策をどのように考えているか? 再発防止策を講じるにあたっては、初期の段階から弁護士をはじめ、様々な分野の有識者の方々から、会社としての問題点や改善策についてご指摘やご意見をいただいてまいりました。大前提として、私が代表に就任して以降は、エンタテインメント業界という世界が特殊であるという甘えを捨て、コンプライアンスの強化を進めており、「ホットライン(匿名相談窓口)の設置」、未成年に対する「保護者同伴の説明会の実施」、「コンプライアンス教育の実施」、「保護者宅からの活動参加」等を推進してまいりました。しかし今回の件を受け、二度と同じような事態を起こさないためにも、外部からの協力も得ながら「コンプライアンス委員会」を設置しており、これまで以上に取り組みを強化、徹底させてまいります。
さらには、企業のあり方や社会的責任として不安な点がないか、社内外に適切なコミュニケーションが行われているか、また社内の価値観や常識だけで物事を判断していないか等、外部の厳しい目で指摘する役割として、社外取締役を迎え入れて経営体制を抜本的に見直すよう、現在人選、依頼を進めております。新しい社外取締役については、確定次第改めて発表させていだく予定です。』
あえてジャニーズ事務所側の立場で反論を考えると、BBCとカウアン・オカモト氏の告発について「事実であるとすれば」と答えている但し書きがすべての問答に対応している、といった所か。明らかに無理な反論であると同時に、結局はなんで事実確認をする前に再発防止を宣言しているんですか? ということになる。
筆者がジャニーズ事務所の立場でこのリリースを書くとしたら、批判を覚悟で「事実であれば」を連呼する形にする。そして事実関係を認めていない段階で再発防止を強く主張することは完全な矛盾であり、ツッコミどころを与えているだけなのですべて削除をする。
実際は事実確認の前に再発防止チームを設置している時点で文面だけの問題ではなく、小手先で文章を直した所で何も解決はしない。文章に問題があるのではなく、企業の問題が文章に表れているだけだ。
事実認定について認めたり認めなかったりあまりにブレブレで、それにも関わらず再発防止策だけは力強く宣言するという、一体何を言いたくて何をしようとしているのか理解不能だ。結局は事実確認の話を避けようとするあまり支離滅裂な文章になっているということだ。
このように、公開された文章を分析していくだけでも企業の問題点は簡単に浮き彫りになる。
すべての対応が性加害の発生を前提としている。再発防止と同時に公表された「心のケア相談窓口の開設」 と 「社外取締役」、これらもすべて性加害の発生を前提としている。14日の公式コメントで「改めて事実確認をしっかり行い、真摯に対応」と、事実関係はまだ不明という立場を取っているにも関わらずだ。
事実確認はこれからというジャニーズ事務所のコメントを受けて、テレビ各局は今後の推移を見守る、今後も出演してもらう、ジャニーズ事務所の対応を見守る、注視したい、と静観の立場を取っている。
しかし事務所の対応もリリースの表現も明らかに性加害の発生を前提としている。
再発防止チームの設置について、事実確認もせずに再発防止なんて誤魔化そうとしているだけ、事実確認をしたくないだけ、という批判を多数目にしたが、仮にそうであれば自ら墓穴を掘ったことになる。
事実確認をします、そのうえで再発防止策に取り組みます、と説明すれば矛盾は一切生じない。前述の通り事実確認を避けることが支離滅裂な説明になっている根本的な原因だ。これもまた文章の問題ではなく企業の問題がそのまま文章に表れている。
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中嶋 よしふみ FP シェアーズカフェ・オンライン編集長 保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」
東山紀之さんのコメントは、テレビ朝日と日本テレビによる報道倫理違反の可能性あり(中嶋 よしふみ SCOL編集長) テレビ局がジャニーズ事務所への「交渉力」を失った理由(中嶋 よしふみ SCOL編集長) ジャニー喜多川氏の性加害疑惑を、企業不祥事の視点から考える(中嶋 よしふみ SCOL編集長) ジャニーズ事務所の「知らなかった」発言を批判できないテレビ局とスポンサーと広告代理店の忖度。(中嶋 よしふみ SCOL編集長) 過去最高の税収68兆円より社会保険料が多い理由。(中嶋よしふみ SCOL編集長)
編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年5月28日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。