新たな競合の出現
では、小売はどうか。
「値決めは経営」。京セラの稲盛和夫氏の言葉だ。氏は、顧客が納得し、喜んで買ってくれる最大限の価格を設定しなければいけない、という。
その「値決め」の権限を手放し、指定価格に賛同したのが、家電量販店大手 ヤマダ電機(株式会社 ヤマダホールディングス)だ。パナソニックの指定価格で売るかわりに、売れ残りの返品が可能となる。低リスク低リターン。実質「委託販売」だ。

ヤマダホールディングス プレスリリースより
今後は「安さ」ではなく、パナソニックとの良好な関係による商品調達、すなわち「品揃え」と、「接客力」を強みにするという。
家電量販店が「安さ」を捨て、定価販売するとどうなるか。 これまで、価格面で不利だった「街のでんきやさん」と競合するのである。
「街のでんきやさん」とは「街のでんきやさん」は、パナソニック系列店の別称だ。その名の通り、商店街などにある小・中規模の電気店をいう。小規模と言えども侮れない。店舗数は全国に15,000。販売額は、パナソニック国内家電の2割弱を占める。
家電量販店の強みである、安さ・品揃え・接客力が発揮されるのは「売る前」だ。対して、街のでんきやさんは「売った後」が滅法強い。
オーブンレンジ配達時に、機器を使って一緒に料理を作る「出張お料理教室」。70代80代の女性向けの「ビューティー家電エステ教室」。地元特有の台風・塩害・ヤモリ侵入対策を施すエアコン設置。留守中でも、カギを預かって機器を設置したり、急用で帰れなくなった顧客のペットに餌をあげたりすることまであるという。顧客が、何を望み、何で困ってるかを知っている。究極の「ワントゥワンマーケティング」を実践していると言っても良い。
中には粗利率(売上総利益率)が40%を超える店もある。東京町田市の「ライフテクト ヤマグチ」だ。
20数年前から、家電量販店が進出してきたのをきっかけに「しっかり値付けして相応のサービスを提供する」という方針を定めた。粗利率は、2022年9月期も44%を超える。
経営者の山口勉氏は言う。
安い店を回り、少しでも安く買って満足するような人はうちには来ないし、うちもそういう人は相手にしません。
(家電「高売り」のヤマグチ、コロナ下でも粗利率44%超:日経ビジネス電子版)
これまで、家電量販店の「安値」攻勢に、さまざまな工夫で生き延びてきた「街のでんきやさん」。この強力なライバルに、家電量販店は「品揃え」と「接客力」だけで対抗しなければならない。とても「小売良し」とはいえないのではないだろうか。

ヤマダホールディングス プレスリリースより