稼げないのはレベルが低いから
弁護士が昔ほど稼げなくなった理由には、合格者数が増えて競争が激しくなったということも当然ある。
「私が試験に合格した18年前は、90%以上が法律事務所に就職していた。そこで少なくとも数年間は、事務所のボス弁や先輩弁護士から、裁判の進め方や書面の書き方、顧客との接し方などを徹底的に叩き込まれる。弁護士としてやるべきことすべてを学ぶ。しかし、昨今は事務所に就職できない人が増えた。就職できずに自分の事務所を開いても、誰も仕事のやり方を教えてくれない。法律のことを知っていても、実務を知らない弁護士には誰も頼まない。依頼が来なければ経験を積むこともできない。完全に悪循環で、食えない弁護士はそのまま仕事が来ない状況が続く」(同)
若い弁護士にとっては大変な時代だが、司法試験の合格者を増やしたのは国策として誤りだったのかといえば、必ずしもそうではない。
「一般の人たちにとって、弁護士に相談・依頼をするハードルが、この10年でものすごく下がった。司法制度改革は弁護士の数が増えたというよりも、弁護士へのアクセスが容易になったという効果のほうが大切だと思う。国もそれを意図していたのだろう。そういう意味では成功したのではないか」(同)
司法的手段へのアクセスが良くなった一例として、法テラス(日本司法支援センター)が挙げられる。司法制度改革の一環として総合法律支援法が制定され、06年4月1日に設立された公的機関だ。
企業内弁護士の数は10年で10倍に増えた
先述のレポートによれば、弁護士の転職時の決定職種は、法律事務所が20%、法務が68.8%、役員・その他が11.2%という結果だった。法務というのは「企業法務」のことで、企業内弁護士(インハウスローヤー)の仕事だ。企業内弁護士は、企業の社員として雇用される弁護士のことである。従来、企業は弁護士と顧問契約を結ぶことが一般的だったが、近年は社員として弁護士を雇う会社が増えてきた。日本弁護士連合会の調べによると、2008年に266人だった企業内弁護士は、18年に2161人となっている。
企業内弁護士が増加している背景として、企業のコンプライアンス経営強化が求められるようになったり、ビジネスのグローバル化でM&Aや組織再編が増えていることが挙げられる。
「企業内弁護士の場合、いわゆる社員なので、入った会社の給与体系によって収入は大きく変わる。転職する際に、法務部長のような役職が付くのなら、それなりの待遇がある。そういう役職手当がつくのであれば、年収700万円程度ではなく、大手なら1000万円くらいになるだろう。法務部で契約書をチェックするような仕事だけだと、一般社員より資格手当が少し付くくらいだろう」(同)
東京都内には数百名の弁護士が所属する大手の法律事務所もあるが、それは例外的であり、法律事務所のほとんどは、いわゆる個人経営の事務所である。それに対して、企業内弁護士を雇う会社は、ほとんどが大企業であり、安定性が大きなメリットだ。福利厚生も充実しているし、十分な退職金もあるだろう。収入だけを考えるなら、実は企業内弁護士のほうが恵まれているかもしれない。しかし、弁護士という職業は収入面だけでは語ることはできない。
「法律事務所からインハウス(企業内弁護士)に転職した後輩が2人いますが、2人とも事務所に戻ってきた。1人は、ある大手商社に転職して5年ぐらい研さんを積んでいたが、やはり裁判に関わりたいと。弁護士を目指す人間にとって、裁判に関わる仕事は、やはりやり甲斐がある。裁判に限らず交渉事とかね。後輩2人とも同じことを言っていた。ただ、1つのスキルを習得するためにインハウスに転職するのは良い経験になるだろう」(同)