このような働かせ方は、外注のふりをした社員であるとして偽装請負と判断される可能性がある、という説明になります。

業務のあらゆる場面で「使用従属性」が認められる場合には、仮に契約書に「業務委託契約書」と書かれていても雇用契約と扱われ、使用者としての権利を認めなければ違法となります。

業務委託契約が雇用契約と判断されれば、労働者は労働法によって保護されます。 具体的には、下記のような労働法上の保護を受けることができます。

・雇用保険、健康保険、労災保険、厚生年金保険などの社会保険制度が利用できる ・年次有給休暇を取得することができる ・残業代を請求することができる ・就業規則が適用される ・最低賃金が適用される

自分が結んでいる業務委託契約が実態として雇用契約に当たっていないか改めて確認してみてください。

どのような要素が重視されるかは職種によっても異なりますので、個別具体的な判断については専門家に相談することをお勧めします。

会社から「雇用契約を業務委託契約に変更しないか?」と言われたら

社員やパートとして働いている人が「業務委託契約への切り替え」を提案される場合もあります。 契約切り替えに際して、留意すべきポイントは2つあります。

1つ目は、雇用契約を業務委託契約に切り替えることは、手続き上は退職扱いになるということです。

業務委託になると社員として適用されていた労働法や社会保険が適用されなくなります。法的保護や補償が大きく変わることは社員にとって大きなデメリットになります。

例えば、下記のようなデメリットも発生します。

・仕事で病気や怪我をしても労災保険が使えない ・私傷病で仕事を休んでも傷病手当金などの手当がもらえない ・失業しても失業手当がもらえない ・最低賃金の補償がなくなるため収入が不安定になる ・残業代が支払われなくなる

働き方や仕事の仕方も変わります。会社側はそれらについてきちんと説明するとともに、働く側と合意することが必要になります。

会社側が契約の切り替えを強要することは違法行為ですから、会社側からの業務委託契約への切り替えは断ることができるとを知っておいてください。一方的に契約変更を告げられるようなケースは安易に受け入れず専門家や労働基準監督署などに相談することが大切です。

2つ目は、形式だけの業務委託契約は「偽装請負」の可能性があるということです。労働者であるかどうかは、契約書の形式やタイトルではなく「働き方の実態」で決まると説明した通りです。

社員として働いている人に対し、これまでと同じような働き方をさせているにも関わらず形式だけ業務委託契約に変更することも「偽装請負」、つまりはは違法行為です。

例えば、業務委託契約に切り替えた元社員に今までと同じ仕事を行ってもらう場合でも、会社側は仕事の場所や時間を指定したり、業務の指示を出してはいけません。強制的に仕事をさせることも出来ません。それでは社員と変わらないからです。

まとめ

業務委託契約は、企業にとっては外部の専門性を活用できるメリット、働く側にとっては自由な働き方を実現できるメリットがありますが、運用を間違えば「偽装請負」などの違法行為になってしまう可能性があります。

そうしたトラブルを生まないためにも雇用契約と業務委託契約の違いや判断基準を正しく理解する、そして働く側は自分自身を守る、企業側は法律と労働者を守る必要がある、という説明になります。

正社員として、あるいはフリーランスとして働いている人でも、働き方が変わることはあります。中には社員なのか業務委託なのか曖昧な仕事もあるかもしれません。柔軟性のある働き方は否定されるものではありませんが、トラブルに巻き込まれないように慎重に判断をしていただければと思います。

桐生 由紀 社会保険労務士 大学卒業後、大手財閥系企業の管理部門業務に従事。第1子出産を機に専業主婦になるが、配偶者の急死により二人の子供を抱えてシングルマザーになる。Authense法律事務所に再就職し、法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引する。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。現在は、弁護士法人でHR部門を統括しつつ、社会保険労務士法人の代表として複数のクライアントを支援している。プライベートでは男子3人の母。 。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年5月15日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。