オバマ政権の迷走で奪われた核の脅威削減のまたとない機会

2009年に政権交代で登板し民主党のオバマ大統領は、就任後チェコのプラハで「核なき世界」演説をして喝さいを浴び、同年のノーベル平和賞を受賞した。彼が掲げた理想実現に向けては、ロシアとの協定PMDAの履行は重要な土台の一つとなるはずであった。

しかし不幸なことに、民主党系の核不拡散専門家集団の中には、解体核のプルトニウム処分法としてMOX燃焼方式をとることはプルトニウム民生利用推進派を助長させるとして不満を持つグループがあった。彼らは2012年にMFFFの建設費高騰が表面化したのを契機に、安価な「希釈処分法」注1)に切り替えMOX燃焼方式を放棄させる強烈なロビー活動を開始した。

当時のエネルギー省のモニツ長官もこの活動の実質的支援者であったことからオバマ大統領もその方向になびき、2014年には建屋は完成に近づき、内装機器も8割が発注済みで現場への設置が進んでいたMFFFの建設を凍結させてしまい、2016年2月にはついに建設を打ち切って希釈処分法に切り替える決断を下した。彼が伊勢志摩サミットで来日し、広島の原爆資料館を訪問して「核なき世界」への所感を述べた3ヶ月前のことである。

この一方的方針転換に激怒したロシアのプーチン大統領は、同年10月にPMDA履行凍結の大統領令を発令した。「希釈処分法」では、プルトニウムの品位がそのまま保たれ、兵器への再利用の道を完全遮断できないからである。当時ロシアはMOX燃料工場をすでに完成させ、BN800も完成しており、稼働中のBN600も含め、MOXでの燃焼処分体制がすでに整えられていたのである。

実際のMFFF建設契約破棄は、翌年政権を奪回した共和党のトランプ政権でなされたが、いずれにしても1万7千発分のプルトニウムの燃焼・廃棄を約束していたPMDAはあえなく流産してしまった。その流産を決定づけたのは、オバマ大統領の希釈処分法への一方的方針変更であり、人類から核の脅威削減の機会を奪った重大責任はひとえにオバマ氏と、その後ろでMOX燃焼方式放棄を画策した民主党系核不拡散専門家集団にある。

かくして、ウクライナ侵攻で西側から戦争犯罪人呼ばわりされているプーチン大統領の手元には、核戦力増強に必要な兵器級プルトニウムが有り余るほど残されている。