センスではできない選手への向き合い方
ー書籍で解説されている、パスの受け手となる選手のY字ポイントへのアピアリング(移動)について。シュワーボ東京で実際に指導するなかで、想定外の難しさはありましたか?
レオ:アピアリングについては、選手個々の才能の部分が大きいですね。数的優位になりにくい場所、何なら数的不利にもなり得る場所へ瞬間的に現れる。そこでのプレイ精度があって、自分で仕掛けながら周りを活かす。技術的に優位性がある選手でないと実践できないですし、プロでもできる人と全然できない人に分かれます。アピアリング理論を実践するための技術的、フィジカル的な要求が高いなと思っています。
ーではセンスで出来ない選手に対しては、どんなアプローチや指導を心がけましたか?
レオ:体の向きを含めて、今回の本にもある原理原則を理詰めで教えます。例えば、ライン間(相手の最終ラインと中盤のラインの間)でのターン。進行方向とは逆に体を向けて、そのまま一回転しながらボールを受ける選手がいるんですけど、ちゃんと半身を作って、進行方向を見ながら片足(進行方向側の足)でボールを受ける。こうすると視野を確保しやすいですし、片足でボールを扱ってそのまま進めば加速しやすい。
ただ、これを教えることはできるんですけど、教わった選手が試合で実践できるかは違うフェーズになります。その選手が試合でミスし続けるからといって、成長を待つために何日もかけられない。そういう場合は別のポジションで起用する。できなくても、その選手には他の良さがあるので。低い位置(自陣後方)でのロングキックが上手いとか。その選手にとって、この能力は伸ばせるものなのか厳しいのか。各選手の体の使い方やメンタルを見極めながら、適材適所でやりくりしています。
クロス対応の真理とは
ー守備編では「同サイド圧縮」「ロック」「T字」も解説されていて、シュワーボ東京に落とし込んでいると思います。この結果得られた手応えや、指導するうえで感じた難しさは何ですか?
レオ:守備から着手すべきだったと思うくらい、失点が減りましたね。これは僕の子どもっぽいところで、攻撃が好きなんでしょうね。ビルドアップという言葉があるくらい、攻撃も(大事なのは)土台作りじゃないですか。そこに着目していましたし、ヨーロッパのトップレベルだと、教え方の違いはあれど、今回の本に載っている真理に近づくようなチーム作りはしていると思うんです。デ・ゼルビやアルテタは攻撃が注目されがちですけど、本当に隙がないのは守備ですからね。
シュワーボに関しては当初、クロス対応の原則であるロック(ボールとマークすべき相手選手を同一視野内に入れ、且つクロスが上がったときにボールを先に触れる位置に立つ)とT字を、しっかり落とし込んでいませんでした。なので守備者が自分の背中に相手を入れてしまう。
ただ、最近聞いたんですけど、日本のサッカー界で広まっているクロス対応の仕方は、センターバックはゴールエリア付近から動かない。ゾーンディフェンスで、入ってきたボールを跳ね返す。センターバックの背中を突かれた場合は、サイドバックが対応するみたいな感じらしいです。
トップクラスのサッカーだと、右ウイングの選手がクロスを上げたときに左ウイングがゴール前に侵入してきます。何ならサイドバックもゴール前に入ってくるくらい。こうなると、日本で広まっている守備の仕方では対応できないですよね。ゴール前の人数で負けるので。センターバックが守れない、マイナスのクロス(ゴールから離れていく軌道のクロス)が来るゾーンをボランチが埋めるT字の原則が浸透していないチームは、いつもマイナスのクロスで失点します。
守備が堅いチームとそうでないチームのクロス対応を研究したんですけど、失点が少ないチームはロックとT字をちゃんとやっている。これを映像を見せながら選手たちに納得してもらいました。シュワーボの失点シーンも、ロックとT字ができていないときでしたね。この原則をもっと早く落とし込んでいたら、今まで出会ってきた選手に与えられるものはより大きかったと思います。
ーでは守備という側面でも、今シーズンのシュワーボは楽しみですね。
レオ:僕は攻撃面、特にビルドアップについてちゃんと喋れる人間なので、そのイメージが先行しがちですけど、練習をご覧になられて分かる通り、シュワーボは異常なハイプレスをするじゃないですか(笑)。そのわりには相手にスペースを与えている感じがしない。今はロックとT字、同サイド圧縮(どちらかのサイドにボールを追い込み、同サイドでマンツーマンに近い形でプレスをかける守備)の原則を徹底しているところです。良いチームが例外なく実践している原則なので、相手にバレたところで、これ以外に良い守備はないです。