だが、今回の訴訟はそれだけではない。創業者ジェームズ・ダイソン氏の「性分」が、大きく影響しているように思う。過剰広告が嫌い、グリーンウォッシュ(※)が大嫌い、すなわち

「欺瞞(ぎまん)が許せない」

という性分だ。以下詳しく見ていく。

※企業がイメージ向上目的で環境配慮しているように装うこと

パナソニック以上の大物訴訟

「過剰な広告」「誤った基準・規制」

これらを是正するため――もちろん自社も利益を享受するため――訴訟するのは、ダイソンにとって珍しいことではない。

パナソニック以上の大物を相手取ったこともある。EU(欧州委員会)だ。欧州委員会が採用した「省エネ性能」表示が、消費者に誤解を与えている、と訴えたのである。

EUでは、省エネ性能により掃除機を、A(最も高い)からG(最も低い)にグレード分けし、製品にグレードを記した「省エネラベル」を貼っている。ダイソンが問題視したのは、表示された省エネ性能と、実際の省エネ性能が大きく異なることだ。原因は、省エネ性能のテスト方法にある。

「空の容器かつ未使用の製品でテストする」

これがルールだ。家庭とは使用環境がまったく異なるため、省エネ性能は高く出る。だが、これは自動車でいう「カタログ燃費」のようなもの。実験室では省エネでも、家庭ではエネルギー浪費が激しい。

このようなテスト方式が採用されたのは、競合他社がロビー活動を行ったからだ。グレード分け実施以降、急にAグレードを謳う掃除機が出回るようになった。ダイソンが、他社製品を調査したところ、グレードAの製品でも、掃除するうちにグレードGレベルまで低下する機種があったという。消費者が「省エネラベル」を目安に購入すると、期待を裏切られる可能性が高い。

一方、ダイソンでは、自社製品を、様々な塵(チリ)やホコリを使い、極力家庭での使用に近い環境でテストしている。正しいが、他社に比べ不利な方法だ。

消費者の誤解を招く。自社の競争力が低下する。これらの理由から、ダイソンは訴訟に踏み切った。5年にわたる闘争の結果、訴えは認められ、2021年以降、掃除機に「省エネラベル」は貼られていない。

ダイソンプレスリリースより