V12エンジンの特徴

直列6気筒のエンジンは前述の1次と2次の往復や偶力の振動が発生しないため完全バランスと言われます(厳密には設計上のピストンピンオフセットや寸法の公差が存在するため異なるのですが、明らかにバランスのとれた気筒配列です)。
そのバランスのとれた直列6気筒エンジンをパッケージレイアウトに優れるV字バンク(V型)に2つレイアウトするとV12エンジンとなるため、バランスとパッケージ(スペース効率)の両面から至高の存在です。
Vバンク角(V字の角度)が60°であれば1サイクルに12回の燃焼が等間隔で行われるため、とてもエンジンの回転がスムースでサウンドの面でも極上のフィールをユーザーへ提供します。
実際にV12エンジンの搭載モデルに乗って体感してみれば、その素晴らしさを感じることができると思います。

希少性が高まり続ける至高の「V12エンジン」【自動車業界の研究】
(画像=3.5ℓV型12気筒自然吸気エンジン:RA122E/B(ホンダコレクションホール所蔵)、『CARSMEET WEB』より引用)

かつてのF1(Formula1)レース用エンジンでは、ホンダが3.5ℓV型12気筒自然吸気エンジン〔RA122E/B〕にVバンク角75°を採用して不等間隔で燃焼させていた例も存在しますが、これはエンジンの全高をおさえて重心を低くすることを優先させているためであり(重心が低いほど走行時の車体が安定するため)、また不等間隔といっても12気筒ありますので十分にスムースにエンジンは回っていました。
他にも過去には日産のグループCマシンでも3.5ℓV型12気筒自然吸気エンジン〔VRT35〕にVバンク角70°を採用していました。
エンジンの低重心化は、絶対的なスピードを競うレースの世界おいては非常に重要であることが伺える設計と感じます。

希少性が高まり続ける至高の「V12エンジン」【自動車業界の研究】
(画像=5.2ℓV型12気筒ツインターボエンジン:AE31 Engine(Aston Martin)、『CARSMEET WEB』より引用)

特徴として、これまでV12エンジンのメリットを中心に述べてきましたが、デメリットについてここで触れてみますと、多気筒であるため同程度の出力を得ようとした場合には、V8やV6エンジンの過給(ターボ等)タイプに比較すると、エンジンの全長が長いため搭載スペースが必要で重量が重いことなどがあげられます。
更にV12エンジンは本体である大型の長尺部品(シリンダーブロックやシリンダーヘッド、クランクシャフト等)の製造、そして、吸気や排気、燃料噴射や点火等の運転制御が大変難しくて一朝一夕に造れるモノではなく、設計も製造も長年の経験から得たノウハウが無くては、とても良いV12エンジンを世に出すことはできません。
結果的にV12エンジンは開発から生産の工程において時間とコストが非常にかかり高額のため需要も限られてしまいます。それらの事情から、実際に市場への投入(販売)やレースへの投入(実戦)してきたメーカーが限られてしまう理由が伺えます。だからこそエンジン屋(専門家)にとっての最終目標とされるのではないでしょうか。

V12エンジンの現在

近年はV12エンジンの生産終了が相次いでおり、先ずは圧倒的静粛性を誇ったトヨタ(センチュリー)のV12エンジンが2017年1月で生産を終了、フィールとパワーで定評の高かったBMWのV12エンジンの生産も2022年6月で終了、メルセデス・ベンツはSクラスにV12エンジンを現在ラインアップせず(Mercedes-Maybachブランドではラインアップ)、フェラーリやランボルギーニもV12エンジン搭載モデル以外のラインアップを充実(V6モデルやハイブリッドモデルの拡充等)させています。
他にもロールス・ロイスやアストンマーティン、ゴートン・マレー・オートモーティブといったブランドなどに今もV12エンジンは搭載されてはいますが、明らかにBEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー型電気自動車)の台頭と反比例するように減少していて希少性が高まっています。

それらの背景には社会課題であるカーボンニュートラルに向けたCO2削減を推進するにあたって、多気筒モデルほど増えやすいフリクションや重量から課題になる排出ガスや燃費悪化への対応といった側面があります。
それに伴い、そもそも半導体不足による新車不足等の理由から高騰している中古車市場において多くのV12エンジン搭載モデルは高額で流通しています。