テレビ局の過剰で異常な忖度。

第五に、メディアによる過剰で異常な忖度がある。

喜多川氏がもしデビューやメディア露出のチャンスをエサに性加害を強要し、なおかつ口を塞いでいたのであれば、この問題は芸能界全体に関わる。特にテレビ局は少なくとも道義的責任を負うことになる。テレビ出演は芸能活動においても最も影響が大きい。ジャニーズ事務所のタレントを重宝してきたテレビ局が、性加害を成立させる一因となっていた可能性すらある。

そして、これも知らなかったでは済まない問題となる。すでに書いたように性加害の疑惑は繰り返し報じられ、高裁では民事とはいえジャニーズ事務所が敗訴しているからだ。

ジャニーズ事務所が弱小事務所ならば、被害を受けたタレントはその時点で退所していたに違いない。しかしテレビ出演のキャスティングに強い影響力を持つ事務所だからこそ多くの被害が生まれた、となればどうか。テレビ局は過去に疑惑が話題になったとき、そして高裁で負けたときになぜもっとジャニーズ事務所に対して慎重な判断をしなかったのか?と考えれば道義的責任では済まない。

実際、カウアン・オカモト氏の会見ではNHKの記者がこの問題がメディアで大きく報じられていたら入所していたか?と質問をして、15歳の未成年で入所していたので親が入所させなかっただろうと回答している。

筆者は普段、執筆はもちろんSNSの書き込み程度でも「忖度」という言葉を使うことはまずない。なぜなら事実かどうか確認できないからだ。

しかし今回の騒動をほぼ無視していた状況はもちろん、過去に所属タレントが不祥事を起こした際に「稲垣メンバー」とか「山口メンバー」と容疑者というワードを避けたり、SMAP解散騒動では当時フジテレビで放送されていたSMAP×SMAPで異様な謝罪映像を流したり、退所したメンバーのテレビ出演が途絶えたりと、過剰な事務所寄りのスタンスは今改めて振り返って見るとその異様さは際立つ。

状況証拠として忖度があると判断するには十分過ぎる。

吉本興業の闇営業騒動の際に筆者は「これが小さい事務所で起きた問題なら所属タレントは誰一人テレビ出演が出来なくなるのではないか? 大手なら黙認するのか? コンプライアンスは相手によって出したり引っ込めたりするようなものなのか? 公共の電波で商売をしているテレビ局として考えられない」と指摘した。この話はジャニーズ事務所への忖度にそのまま当てはまる。

「ジャニーズ後」について。

つい先日、報道の自由度ランキングで日本は68位であまりに低過ぎると話題になった。

政府の圧力により政府の説明責任を追求できていない状況だという。それでも政府与党への批判がゼロということはまったくない。しかしテレビ局によるジャニーズ事務所への批判はゼロ、今回もジャニーズ事務所が公式コメントを出すまでほとんどの局が黙殺していた。SNSでは報道しない自由などと度々揶揄される状況だ。

政府与党よりも「強い」ジャニーズ事務所だが、今後はコンプライアンスに敏感なスポンサー離れで立ちゆかない可能性は高い。景子氏が自ら発した通り「事務所の存続さえ問われる、極めて深刻な問題」だからだ。それに気づかず忖度を続けていたテレビ各局の認識の甘さは呆れるとしかいいようがない。

5月15日の朝8時、本稿の執筆時点でYahoo!JAPANでテレビ欄と実際の放送を確認した限り、今回の公式コメントに関するニュースをキー局はすべて報じている、もしくは報じる予定のようだ。さすがに無視はないと思っていたが、公式コメントが出るまで待っていたと考えれば異常な忖度はまだ継続している。

「ジャニーズ後」のテレビ局や芸能界がどうなるのか、注目したい。

中嶋 よしふみ  FP シェアーズカフェ・オンライン編集長 保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年5月15日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。