ジャニーズ事務所の法人としての責任は?

順を追って解説していこう。

第一に、今回の性加害疑惑は、喜多川氏が亡くなっているため、個人の責任を問うことは出来ない。

起訴は出来ても被疑者が死亡しているため不起訴処分となる(参照・捜査について 検察庁公式サイトより)

だから誰も罪に問われない、ということで話が終わるかというとそれほど単純ではない。法人としての責任、組織的な犯罪の関与については十分に疑われる。

創業者であり、組織の代表者でもある故喜多川氏が所属タレントに対して性加害を行っていたとすれば、それは明らかに組織的な犯罪であり、役員の責任も問われる可能性がある。

例えば社員や役員がプライベートで交通事故を起こして誰かを怪我をさせてしまった……この状況で企業が責任を問われる可能性はほとんど無い。しかしこれが業務中の出来事ならばどうか。

その会社が運送会社で運転が業務そのものであれば、安全運転について適切なルールが作られていたか、過労状態では無かったか、無茶なスケジュールで交通違反をさせる圧力がなかったか、といった点で当然ながら企業の責任が問われる。企業の責任=経営を任せられている役員の責任となる。

芸能事務所であれば所属タレントとのコミュニケーションはマネジメントの一環であり、業務そのものだ。その中で発生した出来事であれば、業務中の事件となる。到底、個人的なトラブルや犯罪とはいえない。

告発でもあるように、本当に性加害の受け入れがデビューやメディア露出に直結していたのであれば、極めて深刻かつ悪質な犯罪となる。業務中の事件どころか業務内容と直結していた事件であれば、法人として責任が問われないことは考えられない。

時折話題となる、企業のリクルーターによる大学生へのセクハラが近いだろうか。これを社長が何十年も続けていたら? 採用してあげるからと学生の弱みにつけ込んでいたら? それが大企業で行われていたら? 「社長が個人的にやっただけ」「会社は無関係」で済まない事は誰でも分かるだろう。

取締役会を開いていなかったジャニーズ事務所

第二に、取締役会がまともに開かれていなかった。

ジャニー喜多川氏と姉のメリー喜多川氏の二人であらゆる事を決定していたと公式コメントにある。組織として適切な意思決定の場が設けられていなかったとすれば、それによって問題が発生した場合、取締役の責任はさらに重くなる。

もし役員会が適切に開催されていれば今回の問題は防げた可能性もある。公式コメントで自ら名ばかりの取締役だったと語る景子氏は経営のプロとして取締役の職務を全く果たしておらず、その責任は極めて重い。

「知らなかったこと」が罪になる。

第三に、現社長の景子氏は性加害について知らなかったと主張している。以下、公式コメントの原文だ。

『ジャニー喜多川氏の性加害を事務所、またジュリー社長は知らなかったのか? 知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした。』

事実関係は不明としているにもかかわらず、「性加害が本当であれば」などの但し書きもなくシンプルに知らないとある。

文面の疑問についてはいったん横に置くとして、自ら知らないではすまないとあるが、これは道義的責任といった気分の話ではない。組織内で起きた問題に対して役員が知らなかったのであれば、むしろそれ自体が問題ということになる。

役員には他の役員や社長(代表取締役)を監視する義務がある。これを監視義務という。

見知らぬところで行われた性加害が監視義務に含まれるかは断言出来ないが、監視義務の範囲は取締役会に上程された(議題に上がった)事に限られず、法的に求められる範囲は決して狭くない(参照・取締役の責任-監視義務違反 弁護士法人朝日中央綜合法律事務所)。

当然、監視義務は景子氏に限らず性加害が行われた時点の役員すべてに求められる。