リスクは「男性が女性の空間に入ること」

このようにメリットはよくわからないが、リスクは明らかだ。経済産業省に勤めるトランスジェンダーの職員が、女子トイレの使用が制限されているのは不当な差別だと国を訴えた裁判で、1審の東京地裁は原告の訴えを認めたが、2審の東京高裁は制限は違法ではないという判決を出し、最高裁で審理している。

もしこの職員の訴えが認められると、同性愛者の男性が「私は女性だ」と言って女子トイレに入ることを役所は拒否できなくなる。今回の法案は、政府が基本計画をつくって毎年その実施状況を公表することを義務づけ、企業や学校にも対策の実施を求めている。

企業でも男性社員が「私は女だから女子トイレを使わせろ」と要求したら、企業はそれを許可しなければならない。許可しないと「不当な差別的取扱い」として訴訟を起こされる可能性がある。過剰コンプラで日本中にLGBT施設ができ、活動家の資金源になるだろう。

さらに2017年にイギリスではカレン・ホワイト事件が起こった。これは性転換した男が「自分は女だ」と主張して女性刑務所に入り、2人の女性受刑者をレイプした事件である。

性転換の前と後(右)のカレン・ホワイト

新宿の歌舞伎町タワーにはジェンダーレスのトイレができたが、女装した男の入ってくる女子トイレは犯罪の温床になるので、行政や企業はLGBTのための空間をつくる必要が出てくる。

日本だけが遅れているわけではない

このように日本ではLGBT法のメリットがほとんどないのに、リスクは大きい。人口の0.5%未満のLGBTのために、全国の役所や企業にジェンダーレストイレを設置する必要はあるのだろうか。

だが岸田首相は、LGBT法案成立に意欲をみせている。今年2月には、同性愛者を「見るのもいやだ」とオフレコで話した荒井秘書官をただちに更迭した。その理由は、5月19日からのG7サミットで「日本はLGBTの権利に鈍感だ」と批判されることを岸田首相が恐れているためだと思われる。

しかしアメリカ連邦議会が同性婚を認める法律を成立させたのは昨年12月。LGBTについては連邦レベルの法律はなく、民主党が提出した「平等法案」は、共和党が反対して成立しなかった。

「G7でLGBT差別を禁止していないのは日本だけだ」というのは逆で、同性愛差別を禁止する法律はG7にはない。差別禁止法の中で同性愛者の差別を禁じている国はあるが、LGBTだけを対象にする差別禁止法は日本が最初である。日本だけが遅れているわけではないのだ。