戴冠式でエリザベス女王がまとったのは、イギリスのデザイナー、ノーマン・ハートネルが手がける、金銀の糸で刺しゅうされた白い最高級シルクサテンのドレス。刺繍は女王のリクエストだ。

The Royal Familyより

シードパールとダイヤモンドで縁取られた、3段のスカラップ(ほたて貝)状に配置された、イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズだけでなく、コモンウェルス(イギリス連邦・当時イギリスの支配下にあったすべての国)の花の紋章の刺繍があった。

また、小さくとも華麗で重要なファッションアイテム、シューズはロジェ・ヴィヴィエが製作した。デザインモチーフにフルール・ド・リス(ユリの紋章)を採用したゴールドのレザー製で、ルビーがちりばめられていた。

ドレスやシューズも女王を美しく飾る宝飾品のひとつと言っても過言ではないだろう。

女王のお気に入りで、ティアラの中で最も有名でかつ最もよく身につけていたのは「ウラジミール・ティアラ」と呼ばれるもので、当時のファッションリーダーでもあった祖母メアリー妃がロシア・ロマノフ家の大公妃から買い取った。

ティアドロップ型のパールが装飾宝石のオリジナルで、メアリー王妃はパールを他の宝石と取り替えたり、パールを外してシンプルなティアラとしても使えるように微調整した。その後、「ケンブリッジ・エメラルド」にも付け替え可能にした。着用時には1時間ほどかけて組み立てるという。

「ロシアン・フリンジ・ティアラ」は61個の棒状のプラチナに488個以上のダイヤがちりばめられている。フィリップ殿下との結婚式で着用したもので、これもエリザベス女王のお気に入りティアラのひとつだ。

それから、エリザベス女王はもちろんのこと、英ロイヤルファミリーはいろいろな場面で真珠を好んで身に付けている。

そのルーツはヴィクトリア女王からともいわれる。ルネサンス期には真珠(天然)は希少性、高い価値があり、富や権力の象徴となっていたが、一方でヴィクトリア女王は亡くなった夫君アルバート王配を悼み人生の約40年間を黒の服装で、光り輝く宝石ではなく控えめな真珠を身につけて喪に服してすごしたそうだ。

エリザベス女王の胸元をたびたび飾る真珠の三連ネックレスは祖父ジョージ5世からの贈り物だし、女王がイギリス君主として初めて訪日したおり、伊勢の真珠島を訪問し、その記念として日本政府が最高級の真珠を贈り、それを四連のチョーカーにして愛用していた。女王の葬儀の時にはキャサリン妃が身に付けて話題となった。

ダイアナ元妃はクイーンマザー(エリザベス女王の母)からの贈り物のサファイアとダイヤのブローチを七連の真珠のチョーカーにリフォームしたものが特にお気に入りで、離婚後もしばしば身に付けた。同じように豪華な宝石をセンターにおいた四連や五連の真珠チョーカーをカミラ夫人やアン王女も好んで公務で着用している。

また、色石のコレクションも素晴らしい。『バーミーズルビー』は戴冠のお祝いにビルマ(現ミャンマー)から贈られたルビーで、これを用いてティアラを作成した。「ブラジリアン・アクアマリン」は戴冠の際にブラジルから贈られたダイヤモンドとアクアマリンのイヤリング&ネックレスのセット。「ケント・アメジスト」はぜいたくにアメジストを施したパリュール(さまざまのアイテムが揃ったジュエリーのセット)で、もともとはケント公爵夫人のものだった。