そうこうするうちに、大企業の国外脱出が始まり、不況の到来だけではなく、ドイツが産業国から脱落するというシナリオさえ現実味を帯びてきた。ところが、肝心の緑の党はそんなことにはお構いなしで、いまだに、肉は食べるな、自転車に乗れ、難民をもっと入れろ、大麻を合法に等々、党のイデオロギーの遂行に夢中だった。

5月の初めのInsa(大手の世論調査会社)のアンケートで、政治家の人気順では常に1位だったハーベック氏の人気が、突然、13位に転落した。この国民の意見の変化に、どれだけメディアが影響しているのかはわからない。ただ、メディアに見切りをつけられれば、緑の党が転落することだけは確かだ。メディアにとっては、ハーベック氏の梯子を外すぐらい御手のものだろう。

ただ、私の推測では、メディアの転換は180度にはならない。基本的にメディアと緑の党は、左翼思想でちゃんと繋がっており、その関係は揺るぎのないもののはずだ。だからおそらく、国民の利便を無視しすぎている政策の一部を修正に持ち込ませる程度だろう。そして、その人身御供にされるのが、ひょっとするとハーベック氏かもしれない。

それにしても、メディアの肥大化は凄まじい。より良い政治は、今や政治家や有権者ではなく、メディアの良識に期待するしかなくなってしまった。ドイツはいったいどこへ行くのだろう。

『メルケル 仮面の裏側 ドイツは日本の反面教師である』