なお、概算取得費と取得費加算の併用は可能です。
譲渡費用とは、土地や建物を売るために直接かかった費用のことです。主なものとしては、土地や建物を売るために不動産会社などへ支払った仲介手数料、印紙税で売主が負担したもの、土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取り壊し費用とその建物の損失額などがあります。
先祖代々の購入価額が不明な畑を売却時に整地する場合がありますが、このような土地の造成費、改良費は土地の価値を高めますので、原則としては取得費と考えます。そのため、通常は概算取得費と造成費、改良費を比較して有利な方を控除となりますが、売買契約書の特約事項に土地の改良を売主の負担で行うことが条件として書かれている場合は、土地の改良をしないと売却できないため、譲渡費用とすることが可能な場合もあります。
改良費が譲渡費用となるのであれば、取得費は概算取得費を使うことができますので、契約書、土地改良の時期を確認しましょう。
譲渡所得計算式の最後にある「特別控除」は、土地建物が収用された場合やマイホームを売却した場合など、要件を満たした場合に控除が受けられます。取得費加算はマイホームの3,000万円特別控除と併用可能ですが、相続空き家特例とは併用できません。
譲渡所得の金額が計算できたら、それに税率を掛けて税額を算出します。土地や建物を売ったときの譲渡所得は、所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得に分けられ、計算に使用する税率も変わります。
長期譲渡所得の税率 15.315%(所得税+復興特別所得税)+ 住民税(5%)の合計20.315%
短期譲渡所得の税率 30.63%(所得税+復興特別所得税)+ 住民税(9%)の合計39.63%
長期譲渡所得と短期譲渡所得では税率に倍近い違いがありますので、長短の判定には注意が必要です。長期譲渡所得とは譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの、短期譲渡所得は所有期間が5年を超えないものです。売却した応当日において所有期間が5年を超えるものではありません。「譲渡した年の1月1日において」の部分を忘れてしまう方が大変多いので気を付けてください。
令和5年4月1日に売却した場合、令和30年4月1日に購入した不動産だと、譲渡した年の1月1日において5年を超えていません。令和5年中に売却するのであれば、平成30年よりも前に購入している必要があるのです。 相続により不動産を取得した場合、被相続人の取得日をそのまま引き継ぎますので、古すぎてどのように入手したかもわからないような場合は長期と判定して大丈夫です。
先ほどの例の計算をしてみましょう。
譲渡収入金額1億5,000万円+30万円=1億5,030万円 取得費 1億5,030万円×5%=751.5万円 取得費加算 4,000万円 譲渡費用 500万円
1億5,030万円―(751.5万円+4,000万円+500万円)=9,778.5万円 9,778.5万円×20.315%(長期)=1,986万5,022円→1,986.5万円
まとめ取得費加算を使って税額を計算すると譲渡所得税の額は1,986.5万円となりました。もし取得費加算を考慮しなかった場合、譲渡所得税の額は2,799.1万円となり、812.6万円もの負担増となってしまいます。相続税の納付額があった方は、相続財産を売却した際に取得費加算を忘れずに申告しましょう。
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古尾谷 裕昭 税理士 ベンチャーサポート相続税理士法人代表税理士 1975年生まれ、東京都浅草出身。2017年にベンチャーサポート相続税理士法人設立。相続専門の司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社・保険販売代理店・金融商品仲介業者からなるベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を代表税理士として率いている。10万人のチャンネル登録者数のYouTube『相続専門税理士チャンネル』を運営。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年5月8日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。