● 追加的に検討すべき対策
警察庁自身の改善策に加えて、ぜひ以下の策も検討して頂きたい。
1. 実力人材の抜擢と登用 今は非常時体制と認識し、「今の現場・今の危機」を知る人材を抜擢し責任者に登用のうえ、力を発揮できるよう組織改正する。狙いは、結果を出せる組織体制の確立にある。具体的な危機の想定や計画の盲点指摘ができない責任者や、警護現場に臨場しないような“本部長”などが重層的に君臨していたりしたら、三度目の襲撃も許容しかねない。
2. 警護計画立案時間の確保 要人側も前日に急遽予定を入れたり変更したりしない。また警護側の意見を過不足なく反映し、要人と警察との連絡内容を記録・保存する。狙いは「思惟の時間と量」を増やし、「想定外のケース」を減らすことにある。
3. 国民への警護(強化)方針の周知 選挙演説妨害などは違法行為の疑いもあるが、何より警察の警護活動に悪影響がある。今や日本は「常に要人が狙われており、危機意識と高度な対策を実施すべき」時代になったと国民にも周知し、警察による警護や妨害者や不審者の排除活動の許容度を拡げる時であろう。
責任を明確にせよ日本の官僚組織は「責任の所在が見えにくい」ことが特徴と言えそうだが、前回警護失敗の責任は曖昧なまま前委員長は岸田内閣改造に伴い退任し、谷公一議員が委員長に就任した(現職)。
谷委員長の就任から二週間後の8月25日、警察庁は警護失敗の要因を調べて検証報告書を公表した。就任後まもなくとは言え、これは現委員長が掌握した後に提出されたものであるのでこの検証とそれに基づく改善の最終責任者は谷委員長であると考える。
ただし、立憲民主党が谷委員長の罷免を迫った「うな丼を最後まで食べるとは危機感も緊張感もないから更迭せよ」という論理展開(※)は全く理解できない。
※ 4月26日参議院本会議、宮口治子(立憲民主・社民)議員の質問
「楽しみにしていたうな丼を最後まで食べた」と発言したとのことです。広島サミットを前にこうした事件に対する危機感も緊張感も感じない人物に、要人警護・警備の責任を担わせて良いのでしょうか?「うな丼大臣」は即刻更迭してください。
(参議院ネット配信から筆者文字起こし)
だが既述の通り筆者なりに考えると責任なしとは思わない。罷免は不要だが、少なくとも、「事件を検証して真に実効性のある再発防止策をとれるような組織改革を断行する責任」は谷国家公安委員長にあると考える。
限定的な開示情報を見る限り、実際に警護にあたる現場組織は、与えられた極めて窮屈な状況の中でよく責務を果たしていた。一方、警察庁の関与を強化しておきながら、その不利な状況を改善できず、更には対策の徹底を指導できなかったのは、組織上層部の指導力の問題であると考える。そしてその組織の最高責任者は谷大臣である。
まとめ日独伊三国同盟締結を阻止していた山本五十六海軍次官には「斬奸状」など暗殺予告も届き、山本自身は遺書も残していたが、連合艦隊司令長官に任命され中央を去った。その後海軍も三国同盟に賛成にまわり対米開戦に向けて加速したがその責任の所在も曖昧なまま今では海の藻屑である。100年前からテロの脅威で日本の方針というのは揺れ動いてきたが、今再びそうなるのだろうか。
しかしテロの脅威による迷走を阻止するためには、責任所在の曖昧な官僚組織と戦う力が必要なので、できるとしたらやはりあの人だろう。