救貧院から生活保護施設へ

救貧院制度が廃止されたのは1930年。大部分が生活保護施設という名前に変わり地方自治体の管轄に置かれたが、1948年の国民扶助法を経てようやく消えていった。その大部分は老人ホームになり、一部はホームレスの収容施設や貧困母子家庭の住居として1990年代初頭まで生き残った。

英国の貧困の現状はどうか?

歴代の英政府は貧困の撲滅を政策の1つとしてきたが、ここで言う「貧困」とは衣類、食物に事欠き、住む場所もない場合の「絶対貧困」ではなく「相対的貧困」で、後者は英国の世帯収入の中央値の60%以下の生活状態を指す。

19世紀とは異なり、貧困層には政府から福利厚生の支援が提供されるが、職を失う、離婚する、事件・事故、景気の動向によって人々は相対的貧困に陥る。

2021-22年度では、6人に1人がこの貧困層(相対的貧困)に入る(下院報告書「英国の貧困:統計」、4月6日発表)。

近年の物価高騰によって、仕事を持っていてもフードバンクを利用する人が増えている。フードバンクは慈善組織などが運営し、無料で食料品や生活必需品を入手できる場所だ。

慈善組織大手「トラッセルトラスト」の調べによると、今年3月までの1年間で、トラッセルトラストが運営するフードバンクで約300万個の食料品パックが配布されたという。前年比37%増である。2017-18年度では約135万個だった。

生活費高騰への対策

英国の新聞やニュースサイトはいかに物価高を切り抜けるかをテーマにした記事を掲載するようになった。

ー光熱費高騰への対策は、「お風呂よりもシャワーを選択」「セントラルヒーティングの温度を下げる」「家の防寒対策(断熱材の使用など)」「電気ガス会社をよりお得なサービスを提供する会社に変える」。

ー食品価格高騰対策は、「まとめ買い」「1ランク下げたものを買い、問題がなければこれを買い続ける」「食品ロスを失くする」「冷凍庫を活用」「4人用1ポンド(約160円)でできるメニューの紹介」など。

多くの家庭にとって、歯を食いしばるような毎日が続いている。

(ウェブサイト「論座」が7月末で閉鎖されることになり、筆者の記事を補足・転載しています。)

編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2023年4月28日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。