ハーバード大学法学部の名誉教授アラン・ダーショウィッツ氏も「この起訴はあまりに弱く、政治的な意図が露骨だ」と語り、この起訴の日を「アメリカにとって悲しい日」とまで評した。
起訴の対象でもブラッグ検事の前任者がトランプ氏の口止め料金疑惑を捜査したものの、立件には無理があると判断して捜査を止めたことがすでに報道されていた。その案件をブラッグ検事があえて再捜査して、起訴にまで持ち込んだという経緯があったのだ。
ニューヨーク州法では文書の改竄も微罪とされるが、ブラッグ検事はその改竄が他のより重大な犯罪を働く意図の下に実行されたとして、その「重大な犯罪」という部分を重罪の要件としている。ところがその「重大な犯罪」がなにかは起訴状に書かれていない。バー元司法長官は「その犯罪名を明記していない点もこの起訴全体をきわめて弱くしている」と論評した。
さて今回の起訴に対してこれほどの否定的な反応が起きることの最大の理由はブラッグ検事の強烈な反トランプの政治性だといえよう。同検事は年来の民主党員で現ポストには2021年はじめの選挙で選ばれたが、その選挙戦では一貫して「必ずドナルド・トランプを有罪にする」と宣言していた。捜査の前に、まず特定人物への法的懲罰を公約にしていたわけだ。
またブラッグ氏は自分の選挙戦に際して年来のトランプ攻撃で知られる大富豪のジョージ・ソロス氏が100万ドルを寄付したリベラル派政治団体から42万ドルの献金を受けていたことも、党派性を印象づけた。
さてトランプ氏の政治現状と同氏への起訴という措置が生んだいまのアメリカの政治状況はこんなところなのである。
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古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。