2021年、米動画配信大手ネットフリックスがダールの全作品に対する権利を獲得したが、今回の表現変更はその前年から開始されたパフィン社と版権管理会社ロアルド・ダール・ストーリー・カンパニーによる見直し作業の結果、生じたという。

何十年も前に書かれた作品を再発行する際、見直し作業があることは珍しくない。

この作業に参加したのが、現代の基準と照らし合わせて不適切な表現を審査する「センシティブ・リーダー」というサービスを提供するインクルーシブ・マインズ社。同社は執筆中の著者とともに作業をしたり、過去の著作を書き直したりする。

作家イアン・フレミングが書いた、架空のスパイが活躍する「ジェームズ・ボンド」シリーズも新たな書き直しの対象となった。

フレミングの「カジノ・ロワイヤル」の創刊70周年を記念する全巻の再出版(4月)に際し、作家の著作権管理団体イアン・フレミング・パブリケーションズが、時代にそぐわない不適切な表現を審査するセンシティブ・リーダーを雇用した。

英国で1954年に出版された「死ぬのは奴らだ」では、翌年米国で出版されるにあたり、「問題を起こしかねない人種に関する語句」を著者の同意のもとに変更していた。

今回は、米国版での修正を踏襲するとともに「現在では大きな怒りを生じさせ、読書の楽しみを奪いかねない人種に関するいくつかの言葉を変更しながらも、原文とその時代をできうる限り残す」ことにしたという(声明文、2月27日付)。

ただ、黒人を蔑視する表現は変更されたものの、ほかの人種や同性愛者、女性に対する蔑視表現は残っていると指摘されている(デイリー・テレグラフ紙)。

時代が変われば、社会通念が変わり、私たちの感受性も変わってくる。これに合わせて原本の表現を変えることの是非が問われている。

読者の方はどう思われるだろう。

作家の死後、著作権の管理組織や出版社が変更を加えることについて、割り切れない思いを抱く読者もいるだろう。その一方で、特定の蔑視表現が入っているためにその本を読まなくなる読者がいたら、文学上の損失とする見方もある。

友人の一人は「あまりにも時代にそぐわない、侮蔑的表現がある場合、読みたくない」という。筆者も実はこの見方に近い思いを持つ。

しかし、著名なスリラー作家アガサ・クリスティーの小説を基にした映画やドラマはよく見ている。彼女の小説の一部に差別的表現があると指摘されているのだが。

例えば「そして誰もいなくなった」は、英国で最初に出版されたときの原題は「Ten Little Niggers(10人の小さな黒人たち)」だったが、米国版では「And Then There Were None(そして誰もいなくなった)」に変更された。この「黒人」を意味する英語が人種差別的表現と見なされるからだ。

ほかにも、いくつかの表現が削除・変更されていたことが分かっている(「アガサ・クリスティーの探偵小説を改訂、不快な可能性のある表現削除」)。