現在の脱炭素運動で求められているのは、COではなくCO2とH2を原料とし、FT技術を利用した輸送用の炭化水素系燃料の製造技術である。CO2はCOと異なり、化学的には非常に安定した化学物質であるため、CO2を化学反応に適した遷移状態にするためには、過酷な反応条件を課する必要がある。例えば、COなら220~270℃の反応温度で済むところを、CO2の場合は、700~800℃の高温が必要になるなどである。

出典:2021年資源エネルギー庁資料
これでは、設備や機器の材質、コストなどの点から問題が生じる。そこで、以下の(2)の逆シフト反応を行わせCO2を一旦COに転換することにより、より緩和な反応条件で上述(1)の反応を行わせることができる。
二つの反応式から、e-fuelを製造するためには1モルのCO2に対して3倍以上のH2が必要となるので、水素の値段がe-fuelの製造コストを決定する重要な要素の一つになることが分かる。
e-fuelの価格には、水素や二酸化炭素の原料費の他、設備償却費、運転費、輸送費、保険や儲けなどが含まれる。経済産業省は、e-fuel 1リットルあたり300~700円と試算しているが、2030年の目標価格として設定している水素30円/Nm3や20円/Nm3程度では、なかなか普及レベルのe-fuel価格にはならない。不足分を炭素税などの導入で処理するというのでは、どこまで国民の理解を得られるであろうか。

出典:2021年資源エネルギー庁資料
日本政府は、合成燃料の推進目標として2050年までにガソリン価格を下回ることを掲げており、水素や二酸化炭素をいかに低コストで調達できるかがカギを握るとしているが、反応工学の視点から見た法則や技術的な制約などもあり、なかなか実現が難しい問題である。