CDPへの登録要請

また、最近増えているのがCDPへの登録の要請です。CDPは英国のNGOであり、企業のCO2排出量データ(スコープ1、2、3)や気候変動対策(体制、方針、CO2削減計画等)の情報を収集した上でランキングを公表しています。CDPの結果は世界の機関投資家が参照するとされています。

ちなみに、最新の「CDP気候変動レポート2022日本版」によれば、ランキング最上位のAリスト企業数は日本が75社で最多であり、2位米国は半分以下の35社となっています(図1)。

図1 CDP気候変動Aリスト2022出典:「CDP気候変動レポート2022日本版」6頁

2022年6月8日付アゴラ記事「日本が圧倒的に世界1位のSDGsランキング」において、Googleトレンドで「SDGs」の検索数が最も多いのは日本だと指摘しましたが、CDPのランキングでも日本企業が圧倒的に世界1位のようです。「世界の企業は脱炭素の意識が高い!」「日本企業は遅れている!」という言説はどこから来るのでしょうか。

本題に戻します。このCDPには、大手企業が自社の情報を登録するプログラムの他に、サプライヤーへ登録を要請するサプライチェーンプログラムがあります。毎年4月~7月が登録期間のため、今まさに大手企業から日本中のサプライヤーに対してCDPに登録するようメールによる要請やオンライン説明会が日々行われています。複数の顧客企業から何度もCDP説明会に呼ばれるサプライヤーも少なくありません。

多くのサプライヤー、なかんずく中小企業にとってCDPへの登録は大変な負担です。自社の年間CO2排出量に加えて顧客別のCO2排出量を算出するだけでも手間がかかる上に、算出した根拠や中長期の削減計画、算出できない場合はその理由や課題など膨大な設問に回答しなければなりません。大手企業側が毎年々々どんなにお願いをしても、自社のTier1(一次)サプライヤーのCDP登録率を100%に近づけるのは至難の業です。

大手企業の皆さまへ解決策のご提案

そこで、大手企業の皆さまへ自社のサプライチェーンCO2排出量の把握率を高め、かつ下請けいじめも回避できる方法をご提案します。とても簡単です。まず、以下の表をエクセルで作成してください。

表1 Tier1サプライヤーのCO2排出量集計表

表を作成したら、(a)欄にサプライヤー名、(b)欄に各社へ支払った調達金額を記入します。大企業の場合はTier1サプライヤーだけで数千社を超えると思いますが、調達金額の上位7割~8割に絞れば数百社程度に収まるケースが多いのではないでしょうか。または重要サプライヤーなど対象を絞ることもできます。

続いて(c)(d)欄にはサプライヤー各社のウェブサイトや統合報告書、財務諸表等の公開情報から売上高とCO2排出量データを拾って記入します。分からないサプライヤーに限り、個別に問い合わせます。

(a)~(d)欄が埋まりましたら、(e)欄で(d)×(b)÷(c)を計算します。サプライヤーの年間CO2排出量を、各社の売上高に占める自社向け売上高の比率で按分するのです。これがサプライヤーによる自社向けのCO2排出量です。(e)欄を合計すればスコープ3(Tier1)の排出量が出ます。

当然ですがすべてのデータの年度を合わせます。本稿掲載時点であれば2021年度実績が集められますし、6月以降になれば2022年度実績も集めやすいと思います。過去年度分についても同じ作業で遡ることができますので、3年や5年といったトレンドを統合報告書やウェブサイトに掲載することも可能です。

もちろんこれは簡易的な計算です。理想は日本中のすべての企業でエネルギーの見える化ができた上で、製品別や顧客別のエネルギー使用量に応じてCO2排出量を集計できればよいのですが、現実的ではありません。

金額比率による按分は推計ではあるものの、環境省も認めている簡便な方法です。今後もサプライヤーへアンケートを送ったりCDPへの登録を要請するといった途方もなく無駄な作業が日本中で繰り広げられるよりも遥かにマシです。大企業側が汗をかくことで把握率が向上しますし、多くのサプライヤーにとっても集計作業やアンケートへの回答、CDPへの登録などが不要となるため歓迎されるはずです。