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サプライヤーへの脱炭素要請が複雑化

世界ではESGを見直す動きが活発化しているのですが、日本国内では大手企業によるサプライヤーへの脱炭素要請が高まる一方です。サプライヤーは悲鳴を上げており、新たな下請けいじめだとの声も聞かれるようになってきました。

以前はサプライヤーに対して事業活動全体のCO2排出量提出、ならびに2030年半減や2050年脱炭素、毎年XX%削減、などを求めていましたが、昨今は流れが変わってきました。

年間CO2排出量の提出ではなく、川下の大手企業がそのサプライヤーから購入している原材料や部品について所与の単位当たりCO2排出量注1)を求めたり、自社向けの生産や輸送に関わるCO2排出量注2)を教えてほしい、といった内容に変化してきました。

これは筆者が2023年1月9日付アゴラ記事「企業の脱炭素は自社の企業行動指針に反する①」で指摘した通りの展開です。

“2023年1月現在、日本の産業界ではサプライチェーンの下流から上流に向けて脱炭素要請の大波が押し寄せています。要請とは言ってもいきなり立ち入りや現地確認になることは稀で、まずはアンケート調査を受けることになります。

具体的には、

自社のCO2排出量を把握していますか 把握している場合はスコープ1、2、3それぞれ数値を記入してください CO2削減の年間目標はありますか (2030年などの)中期目標はありますか 2050年脱炭素の長期目標はありますか

などを聞かれます。

(中略)

サプライチェーン川下の大手企業が脱炭素をめざすのは各社の自由です。一方で、サプライヤーにまで2050年脱炭素や2030年CO2半減を求めることが、企業倫理の観点で正しい行為と言えるでしょうか。

本質的には、川下大企業自身のサプライチェーン(スコープ3)が脱炭素になればよいはずです。自社が提供を受けている部品や原材料の脱炭素をめざすことと、各サプライヤーに対して事業活動全体の脱炭素を要求することは全く別次元の話です。

優越的地位の濫用に当たるのではないかといった報道も出始めたせいか、サプライヤーの年間CO2排出量ではなく自社のサプライチェーンCO2排出量の把握に変わってきました。その結果として、サプライヤーの負担が急増しています。

事業活動全体のCO2排出量であればデータはひとつですが、製品別や顧客企業別に内訳を算出しなければならなくなり複雑化しているのです。