働き方の多様化が進み、「パラレルワーカー」「多拠点ワーカー」など、従来の常識にとらわれない人材が出現しはじめた昨今。卒業後は企業に就職するのが当たり前だった新卒の学生が、就職せずいきなりフリーランスになる「新卒フリーランス」という働き方が少しずつ見られるようになっているのをご存知でしょうか。
ネットで見かける新卒フリーランスに関連した記事には成功体験が多く、それを見て「自分も新卒フリーランスになってみようかな」と思う人がいても不思議ではありません。
しかし新卒でフリーランスになると、普通の新卒社会人の何倍も苦労することになるでしょう。この記事では、新卒フリーランスのメリット/デメリットや、新卒フリーランスに向いている人などを、経験者の意見をもとにまとめていきます。
新卒フリーランスは基本的におすすめできない
まず、身もフタもないことを言ってしまうと、新卒フリーランスは基本的におすすめできません。少なくとも、新卒フリーランスを3年ほど経験した私はそう断言できます。
では、なぜ新卒フリーランスはおすすめできないと感じたのか。理由を以下でご紹介します。
理由1. スキルを伸ばすハードルが高い
新卒フリーランスは、とにかくスキルを伸ばすハードルが高いです。
フリーランスは「業務委託契約」というものを結び、クライアントから仕事を請け負うことになるのですが、この「業務委託」は「その分野のプロとしてのスキルがある」ことを前提にしたものです。しかし、新卒フリーランスはそもそもスキルを習得し、伸ばすのが難しいのです。
先輩や上司がいないため、業務はもちろん社会人としてのマナーも自ら主体的に学ばなければいけません。はじめのうちは、業務をこなしながら必要なスキルを身につけていく必要があります。
どんな仕事でも、成功するためには新たな知識の獲得やスキルアップにあてる時間が必要です。しかし新卒会社員なら研修や日常の業務などを通じて上司や同僚から多くのことを学べるのに対し、新卒フリーランスにはそれがありません。
理由2. 実績を積みづらい
スキルを伸ばしにくいことと関連して、実績を積みづらいことも非常に大きなポイントです。
基本的に、フリーランスの仕事は「前の仕事をこなし、その実績が次につながる」という仕組みです。しかし、新卒フリーランスの場合は「0から1をつくる」、つまり「最初の仕事を受ける」ことがそもそも難しい側面があります。
そして、フリーランスの場合、クライアントは「プロとしてのスキル」に期待して依頼するため、皆さんを成長させたり、チャレンジさせたりする義理も理由もありません。
つまり、皆さんが「チャレンジしたい」と思う案件があっても、その案件をこなせることを客観的に証明できるスキルや実績がなければ、そもそも案件を受けられません(そして、下準備となる実績やスキルを積みづらく、新しい仕事も取れないという負のループに陥ります)。
また、皆さんがミスをしたり、「使えない」と思われれば、容赦なく契約打ち切りになるでしょう。新卒会社員のように、会社が皆さんのミスをカバーし、育ててくれることはないと思ってください。
理由3. 収入が伸びづらく、管理も大変
新卒フリーランスは確かに難しい働き方ですが、一方で新卒の初任給を稼ぐ程度なら簡単にできます。いきなり月収50万、100万も決して夢ではありません。
しかし新卒フリーランスは収入が頭打ちになりやすく、最初は好調でも数年経つと会社員に逆転されるケースがしばしばあります。昇給やボーナスがないうえ、収入の波も発生しやすいためです。
また、フリーランスは原則として確定申告が必要になります。確定申告をするためには帳簿付けをしなければならないのですが、複雑かつ面倒なので社会経験のない新卒フリーランスには辛いものがあります。
安定しない収入をうまくマネジメントしたり、急激な収入の落ち込みがあった際には補助金を申請したりするなど、お金の知識も欠かせません。
理由4. 社会的な立場が低く、不安定
もともと、フリーランスは社会的信用が低いことで知られています。新卒フリーランスの場合、珍しい働き方ということもあって信用の低さはさらに目立ちます。社会人として稼いでいた時期がないので、賃貸・クレカ契約、ローン借り入れなどが難しいです。
また、周囲の大人に反対されたり、あるいはガッカリされたりするケースも多いでしょう。また、場合によっては恋愛や結婚が難しくなることも想定されます。
理由5. 人生の選択肢が狭まる
新卒フリーランスの真の難しさは「将来の不透明さ」にあります。いまは新卒社会人より稼げても、5年後、10年後も同じ稼ぎがあるとは限りません。
こうしてフリーランスとして苦しくなったとき「一回会社員をやってみようかな……」と思っても、新卒就活に比べると選択肢が非常に狭くなります。新卒でしか入れない会社もあるほか、中途採用にエントリーしても「(会社員としての)経験不足」に悩まされることがあるでしょう。
実際、私も会社員を検討した際、キャリアコンサルタントから「新卒フリーランス1本という経歴は、『チームでの仕事に向いていなさそう』『すぐ会社を辞めそう』といった懸念を企業に与える」と聞かされました。
もちろん工夫次第で就職も可能ですが、難易度が上がるのは間違いありません。
新卒フリーランスになるメリット
新卒フリーランスは難しい働き方ですが、それを実行したくなるだけのメリットがあるのも事実。だからこそ、私は新卒フリーランスになる決意をしたわけで、数は少ないながらも新卒フリーランスになる学生が存在します。
以下では、経験者が感じる新卒フリーランスのメリットを5つご紹介します。
メリット1. 好きなことを仕事にできる
新卒でフリーランスになった場合、何をしてお金を稼ぐのかすべて自分で決められます。後で詳しく触れますが、フリーランスでできる職業は近年多様化しており、趣味や学んできたことで生計を立てていくのも夢ではありません。
「就活しているけど全然魅力的な企業がない……」「絶対にこのスキルで稼いでいきたい!」という思いがあれば、これは大きなメリットになります。
メリット2. 自由な働き方ができる
フリーランスには仕事をする時間や場所を選ぶ自由があります。出社日や出勤時間、勤務地は制限されません。最近ではテレワークや時短正社員などの仕組みもある程度広まり、会社員の働き方も少しずつ自由になりつつありますが、フリーランスには敵いません。
ただし、「フリーランス=自由に働ける」というのは厳密に言うと間違いで、職種によっては会社員と同様に週5日フルタイムの出社を求められる場合もあります。
メリット3. 新卒でも責任ある立場で働ける
フリーランスは業務の内容などは指示されることが多いものの、自分の力で責任をもって働くことになります。一方、新卒会社員の場合、良くも悪くも研修やOJTによって独り立ちできるまでには時間がかかりやすく、裁量権はなかなか得られません。
そのため、新卒でフリーランスになれば、同期の社会人より早くから責任ある立場で働けます。
メリット4. 就活しなくていい
会社に入るために必須ともいえるのが「就活」。しかし、髪型や服装を就活仕様に変えたり、企業研究をしたり、面接を突破するために練習をしたりと、苦労することも多いです。一方、新卒フリーランスには就活がいらないので、こうした煩わしい思いはしなくて済みます。
メリット5. 新卒会社員より稼げる
一般的な日本企業では、年齢とともに給与が上がっていく年功序列制の体系がとられていることが多いです。この場合、どんなに優秀な新卒社員でも、年齢を理由に低い給与で働かされてしまうことは珍しくありません。
そのため、「若いうちからバリバリ稼ぎたい!」という場合、新卒フリーランスになれば報酬の上限がなくなるので、スキルによっては新卒社会人の何倍もの報酬を手にできます。
ただし、先ほど触れたように「収入の伸び悩み」という問題に直面する可能性は高いでしょう。