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食事の世話は入場料を払ったビジターの仕事
象と一緒に山を歩き、草を食べる姿を見守る
食事の世話は入場料を払ったビジターの仕事

「さあ、象が食事をする時間だよ!」
ガイドが声をかけて、到着時にみんなで運び込んでおいたバナナやサトウキビの餌を与えることになった。
世話係が何やら象たちに声をかけると、彼らは我々と向かい合う形で木柵の向こう側に行儀よく並んだ。ここでは、象使いが手にする先の尖った金属の手鉤(てかぎ)や拘束のための鎖などは一切使わない。
「餌を持った手を高く上げてタイ語で"上"を意味するボンを大声で2回叫ぶんだ。そうすると象たちが顔を上げるから、長い鼻も一緒に上がって口を開く格好になる。そこへ餌を押し込んでやるんだよ」
言われた通りにやってみると、確かに口とピンク色の舌が目の前に現れた。
要はそこへ餌をやればいいわけだが、なにしろ口も舌もやけに大きく、舌は固くザラザラしている。ついつい腰が引けて、象が餌を落としてしまう。それを拾おうとして、背後に大きな茶色の固まりが迫ってくる気配を感じた。振り返ると仔象のラッキーが餌を横取りしに来たのだ。
まったく、なんというわがまま小僧、もとい仔象なのだろう。
餌やりの合間にあちらこちらで歓声や悲鳴が上がるのは、この「ラッキー仔象」が餌を求めて好き放題にうろつき回っているからなのである。
象と一緒に山を歩き、草を食べる姿を見守る

食事が済むと、象たちと一緒にトレッキングに出かけることになった。
しかし、山の斜面を登り始めた象たちの足はすぐに止まった。どうしたのかと思ったら、4頭の象たちは思い思いに散らばって、長い鼻で雑草をむしってはむしゃむしゃと食べ始めている。
それにしても、よく食べる。さっきバナナやサトウキビをやったあとも、我々は茅(かや)のような丈の高い草を大量に与えているのだ。
ガイドによれば、彼らの食べる餌の量はトン単位にのぼるのだという。あの巨体だから仕方が無いとはいえ、ここのスタッフたち、一日中象の餌の確保に追われているのではあるまいか。ビジターが支払う入場料も、ほぼそのために使われるという。
我々は、ただ象たちがひたすら草を食べる様子を飽きること無く眺めながら、昔のジャングルの中での象たちの暮らしぶりや、現在のタイにおける象の置かれた厳しい環境などについて語り合った。
そのうちにラッキーと母親の姿が見えなくなった。どうやらラッキーのお昼寝タイムらしい。