かつて、タイ旅行の目玉といえば象の背中に乗ってのジャングル・トレッキングが定番だった。しかし今、チェンマイでは象を自然な状態に戻し、対等な立場で人と共存するための新しい試みが始まっている。
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辛い労役から解放された象たちの楽園
自由奔放な1歳の「ラッキー仔象」と遊ぶ
辛い労役から解放された象たちの楽園

チェンマイ中心部から車で約1時間半。川向こうの緑濃いジャングルは「エレファント・サンクチュアリ」と名付けられていた。
ここに集められたのは、山奥の森林伐採運搬現場、各種の「曲芸」を強要されるサーカス、背中の痛む固い椅子を固定されて人を乗せるエレファントキャンプなど、さまざまな労役を強いられる場所から解放された象たちである。
タイ人オーナーToto氏は、そうした"自然に反した労役"に苦しんできた象たちを金銭や話し合いで救出し、まったく強制のない自由な環境のもとで余生を送ってもらい、あるいは新しい生命を育んでもらうために日々情熱を傾けているのだという。
自由奔放な1歳の「ラッキー仔象」と遊ぶ

そんな話をしているうちに、何の前触れもなく一頭の巨大な象が我々の目の前にのっしのっしと迫って来た。
同じビジター・グループになった若いファラン(欧米人)は驚いて身を引いたが、冷静に見てみるとその象はただ興味深そうに我々の様子を窺っているだけなのである。その証拠に若い米国人カップルは、すぐに慣れて象の鼻や首を優しく撫で始めた。
微笑ましい光景に見とれていると、今度は私の腰の高さくらいの仔象とその母親らしい2頭が、何の警戒もためらいも見せず、我々の間にぐいぐいと割って入って来た。
遠巻きにしているカレン族ガイドや世話係は何の注意も与えず、ただニコニコと見守っているだけだ。
私自身、その巨大な姿に何の恐怖も威圧感も感じることはなく、とりわけ愛らしい1歳の仔象「ラッキー」の自由奔放な動きに目が釘付けになった。
象の放し飼いというものは、基本的に犬の放し飼いとまったく同じなのである。そのことが、妙に新鮮に感じられた。