出店増加できるか

既に、首都圏や市街地はコンビニ「飽和状態」と言われる。もし、ここにSIPを出店したら、従来型セブンイレブンと、新型セブンイレブン(SIP)の新旧対決だ。従来型セブンイレブンは、通常のドミナント以上に厳しい戦いを強いられる。オーナーたちは黙っていないだろう。より、本部との関係が悪化する可能性が高い。

直営で出店する場合、これに「低利益」という問題が加わる。

現状、セブン&アイは、SIPの収益目標など詳細を明らかにしていない。どのくらいの利益を想定しているのか。いや、そもそも儲かるのか? 参考事例がある。(やはり)「まいばすけっと」だ。

薄利のまいばすけっと

まいばすけっとの利益率はかなり低い。過去5年平均(2018~2022年)の営業利益率は「1.46%」。イトーヨーカドー(等スーパーストア事業)の営業利益率「1.04%」(2022年度)と、ほとんど変わらないのだ。

イトーヨーカドー分離を訴えるセブン&アイの「物言う株主」たちが、このSIPプランに納得しないのは、当然のことと言える。

経営理念の実践

では、なぜ、まいばすけっとは、薄利であるにもかかわらず、経営を続けているのか。理由のひとつは、手薄になっているイオンの都心部店舗の補完。もうひとつは、「経営理念」の実践だ。

先に、顧客層は「近隣の住人」と述べた。まいばすけっとには、もうひとつ顧客層の切り口がある。「買物弱者」だ。買物弱者とは、「高齢者等を中心に、店舗まで500m以上距離があり、食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる人」(農林水産省定義を要約)を指す。

まいばすけっとの理念は、買物弱者に「物理的にも、心理的にも近い店」を提供することだ。筆者が利用する店舗も、比較的高齢者の利用が多く、従業員の接客も丁寧なように感じる。

顧客視点の大切さについて、イトーヨーカドー創業者の伊藤雅俊氏も以下のように述べている。

株主が大切なのは理解していますが、株主の方を向いて経営したのでは、結果的に会社の業績を悪くしてしまうでしょう。小売業は、お客様が店に来てくださって、初めて成立する仕事ですから、お客様第一でやっていかないと衰退します。お客様第一で経営するからこそ、株主にも報いることができるのだと思います。

(ひらがなで考える商い 伊藤 雅俊/著 日経BP出版センター)

イトーヨーカドーの生き残り策として勘案した新業態「SIP」。これが、顧客ではなく株主向けのアピールだとしたら、最終的に、株主に報いることすらできなくなってしまうのではないだろうか。

【注釈】 ※1 ドミナント 地域を絞り込み、集中的に出店することにより、顧客を囲い込み、利益を獲得する手法。フランチャイズが主であるコンビニでは、既存加盟店の近隣に他オーナーが出店すると、既存加盟店の利益が減少することが問題となっている。

まいばすけっと指標値は決算公告、イトーヨーカドー指標値はセブン&アイ有価証券報告書より算出

【参考】 コンビニより強い!首都圏で増殖続ける、まいばすけっとの全貌!