ライトバンとはいえ、ホンダ初のファミリーカー

「誰もここまでやれとは言ってない」ぶっとびスポーツライトバンの先駆車・ホンダL700【推し車】LM700_1965_interior.jpg
(画像=デラックス仕様のLM700なので、2トーンカラーのシートなどシャレた内装となっており、前席はベンチシートのほか、セパレートシートもあった、『MOBY』より引用)

しかし、「他にそういうエンジンを作っていなかったし」と、軽トラのT360へ平然とDOHC4連キャブの水冷エンジンを載せたホンダですから、ライトバンを作ると言ってもタダゴトでは済みません。

小型車用エンジンと言っても他社のように低中速トルク重視のOHVエンジンなどなく、ホンダ初のナナハン、ドリームCB750FOURが登場する前ですから、T500よりは排気量が大きいだけマシなS600の606ccDOHC4気筒エンジンAS285Eをベースにする以外は無理。

そこでAS285Eを687ccへ拡大、シングルキャブレター化とフラットトルク型へリファインしたAS700Eを作り、フロントにマクファーソンストラット、リアはリーフリジッドサスを組んだS600よりホイールベースが長いシャシーへ搭載しました。

こうして1965年9月に発売されたのがL700で、前項で記したようにファミリーカー的な用途も想定されますから、ベーシックモデルの「LA700」(48.8万円)と、商用登録のままながらステーションワゴン的なデラックス路線の「LM700」(52.5万円)をラインナップ。

同時期の1965年2月には、ワゴン的な用途も考慮したテールゲートつきクローズドボディの「S600クーペ」も発売されてはいましたが、ちゃんと後席があって定員5名のL700は事実上、「ホンダ初のファミリーカー」でした。

オーバースペックで肝心の仕事に使えず、乗用車としても高すぎ

「誰もここまでやれとは言ってない」ぶっとびスポーツライトバンの先駆車・ホンダL700【推し車】
(画像=『MOBY』より引用)

後席のサイドウィンドウは横開き開閉可能だが、アルミサッシのように無骨な枠がデザインとしては今ひとつ 当時のカタログを見ると、「軽自動車をしのぐ最小回転半径4.0m」、「どんな雑踏も駆け抜ける0→400m/22.8秒の加速」、「登坂力21分30秒 どんな坂でもぐんぐん登り切る」と、ライトバンに要求される走行性能の高さをアピールしています。

「120km/hで連続走行OK!」という法定速度を無視した文言はさておき、1963年に名神高速が部分開通して以来、日本全土で建設・開通が相次ぐ高速道路時代への対応も先進的ですが、それよりライトバンとして重要なのは経済性です。

要するに多少動力性能が劣ろうとも、低中速トルクがあって加速重視の変速機を組めばDOHCエンジンなど不要で、安くて整備性に優れ、燃費がいいOHVエンジンでライトバンとしては十分なのに、オーバースペックな「スポーツライトバン」は仕事に不要でした。

スポーツワゴンとして使おうにも高価すぎ、S800用のAS800Eをシングルキャブレター化して搭載、「L800」へと改名した1966年にはデラックス仕様のLM800でも43.8万円と大幅値下げを敢行しますが、同年発売の初代カローラ2ドアセダンが43.2万円です。

それならば、ちゃんと乗用車に見えるカローラやサニーを買おうというのは当然の流れであり、L700/L800は完全に世の流れを見誤った存在でした。