もう1つの歴史を揺るがした「ペンタゴン文書」漏洩事件。筆者が住んでいたバークレーのお隣さんだったダニエル・エルスバーグ(以下の写真、ブルーのシャツ)。自宅やロンドンでも複数回会って、話を聞いた。

ダニエル・エルスバーグ(左)

ベトナム戦争の実態が、米政府の発表と違う。国防総省の高官として米政府は許せないとして、刑務所入りを覚悟。家族も駆り出して機密文書をコピーしまくり、信頼できる米の大手新聞 ワシントンポスト紙に渡した。ウイキリークスやスノーデン事件と違って電子的な作業ではなく、今回とほぼ同じようにアナログの「紙」による持ち出しだった。

2つの大戦を経て、超大国として、世界に君臨した米国。相手が悪魔の共産主義だと思い込んで、実はべトナム人の民族自立運動を潰す結果になっていることが暴露された。直接ではないが、べトナム戦争の終結にも一役かったとも言われる。

彼の言葉で一番印象に残ったこと。

「自分は誇るべき民主主義国家米国の一員として、自分の政府が事実でないことを言うのは許せない。短期的には米国は世界での評価は落ちるが、最終的には米国と人類のためになる」

これもエドの告発と同じように、かなりの程度まで正当化できる。米政府は公開されないように、ワシントンポスト紙に圧力をかけた。だが、世論もダニエルと共に同紙を支援。結局、ダニエルは刑務所入りを免れた。

米国がまだ健全である証拠だ。

さらに「パナマ文書」と基本は同じ。世界中の大金持ち、気が遠くなるような資産をもつ企業が、節税、脱税目的で、いかに卑怯なことをやっているか、カリブ海などの会計監査会社から、機密文書を持ち出したスイスの銀行家。ルドルフ・エルマー。彼ともジュネーブで数日間、密着・対談した。彼も基本は紙による持ち出しだったが、動機は明白。世界から「不正をなくす」という正義感だった。

その流れでEU評議会責任者とも親しくなり「パナマ文書」を公開した謎の人物に辿り着いた。生死がかかっているので、詳細はいまだに書けない。

今回、機密文書漏洩で逮捕された一等空兵のテシェイラは21歳。空軍の情報保守・安全運用に関する仕事で、国防総省本省の機密ネットワークへのアクセスが可能だった。

詳細はまだ不明だが、毎日のような単調な仕事ばかりで、内容があまりない、飽き飽きしていた。

コミュニテイ・アプリの1つ「デイスコード」。ゲーム同好の士が集まる特殊なネット空間は、独特な世界。会ったこともない赤の他人だが、チャット仲間とは妙な連帯感があった。「ねえ、みてみて、俺はこんな機密情報を持っている」などと、仲間への自慢をしてみたかった。

今回逮捕された空軍州兵は「デイスコード」では人気者だったという。

10月から漏洩は始まってやっといまになって逮捕、起訴された。「デイスコード」運営者が協力したので、これでも早い方だった。あまりあることではないが、メンバーの個人情報を捜査当局に提供した。非協力なら、まだ時間がかかった。

この一等空兵。浅薄な反戦思想もあったらしいが、機密情報がどのように1人歩き、露中などが喜ぶことなど、さらに、一部はロシア諜報が改ざんしてプロパガンダに使うなどなど、深く考えていなかった。21歳の世界知らずには分からないことだ。

重要なこと。今回漏洩された文書の殆ど「真正」だった。最初は騒ぎにならなかったと言われる。つまり、現時点で出ているモノ「以前」により重要な、つまり露中がさらに喜ぶような情報が既出している可能性も高い。

この種の情報漏洩で重要なことはどこまで「公益性」があるかだ。漏洩は違法、それは許せないこと。だが告発したことで世界がよくなれば、別論が登場する。結局、差し引きで判断する。あくまでも「公益性」とはなにか?の議論で、結論は永遠に出ない。

漏洩で人が死ぬのはほぼ間違いない。

何とか、このような漏洩事件が起きないように、最善の防止策、抑止になる重い刑罰が望まれる。