(問6)では、出生数を引き上げるヒントは何か。
(答え)出生数を増やすヒントになるのが、「出生率の基本方程式」だ。この方程式は筆者が時々利用しているもので、「合計特殊出生率=(1-生涯未婚率)×有配偶出生数」という関係式をいう。日本では婚外子は約2%しかおらず、子供を産む女性は結婚している女性が多いため、合計特殊出生率は、平均的にみて、夫婦の完結出生児数(夫婦の最終的な平均出生子ども数)に「有配偶率」(=1-生涯未婚率)を掛けたものに概ね一致する。
このため、夫婦の完結出生児数を「有配偶出生数」と記載するなら、「合計特殊出生率=(1-生涯未婚率)×有配偶出生数」という関係式が成立し、例えば、生涯未婚率が35%、夫婦の完結出生児数が2であるならば、出生率の基本方程式から、合計特殊出生率は1.3になる。
また、厚生労働省「出生動向基本調査」によると、夫婦の完結出生児数は1972年の2.2から2010年の1.96、2015年の1.94まで概ね2で推移してきたことが読み取れる。それにもかかわらず、合計特殊出生率が低下してきている主な理由は、生涯未婚率が上昇してきたためである。
出生率の基本方程式から、合計特殊出生率を引き上げるためには、2つの施策が考えられる。まず、一つは、生涯未婚率を引き下げる施策であり、もう一つは、有配偶出生数を引き上げる施策だ。ここでは、後者の施策を考えてみよう。
既述のとおり、有配偶出生数は1970年頃から概ね2であるが、生涯未婚率(0.35)が変わらない前提の下、有配偶出生数が3に上昇したら、どうなるか。出生数の基本方程式から、合計特殊出生率は1.95となる。この値は、現在の合計特殊出生率(1.3)の概ね1.5倍で、現在の出生数が約80万人であるため、出生数が120万人程度に跳ね上がる可能性があることを意味する。
(問7)「出生率の基本方程式」で、有配偶出生数を引き上げる施策に注目する理由は何か。
(答え)(問6)で説明したとおり、「出生率の基本方程式」、すなわち「合計特殊出生率=(1-生涯未婚率)×有配偶出生数」という関係式に従うならば、①「生涯未婚率を引き下げる施策」と、②「有配偶出生数を引き上げる施策」の2つが考えられる。
このうち、①の施策により、生涯未婚率が35%から20%に引き下がっても、有配偶出生数が2のままでは、出生率は1.6(=0.8×2)までしか改善しない。より極端な議論では、生涯未婚率がゼロに近づいても、有配偶出生数が2のままでは、出生数の上限は2で、人口置換水準の2を超えることはできない。しかしながら、生涯未婚率が35%のままでも、有配偶出生数が3になれば、出生率は1.95になる。さらに、有配偶出生数が4になれば、出生率は2.6になり、人口置換水準の2を超えることができる。
最終的には政治判断だが、「生涯未婚率を引き下げる施策」と「有配偶出生数を引き上げる施策」のうち、どちらを、まず重点的なターゲットにするべきか、基本方程式からは明らかではないか。なお、生涯未婚率が上昇してきた背景には、若い世代の賃金が伸び悩み、その労働環境が厳しさを増していることが関係している可能性が高く、この改善も重要であることは明らかであろう。
(問8)では、どうやって、有配偶出生数を2から3に引き上げるのか。
(答え)これは容易ではないが、これこそ、異次元の対策として、第3子以降の出産につき、出産育児一時金を子ども一人当たり1000万円に引き上げてみてはどうか。(問6)で説明したとおり、夫婦の完結出生児数は1970年代から現在まで概ね2で推移してきたが、1940年代の完結出生児数は概ね4、1950年代は概ね3.5、1960年代は3弱もあった。
まずは、有配偶出生数の2から3への引き上げを政策ターゲットに位置付け、第3子以降の出産を強力に支援するため、第3子以降の出産育児一時金を子ども一人当たり1000万円に引き上げるという施策である。
昨年、岸田首相のリーダーシップで、出産時に子ども一人当たり42万円が支払われる「出産育児一時金」を、2023年度から50万円に引き上げることを決めたが、これまでの出生数の減少トレンドをみても、8万円程度の増額で合計特殊出生率が上昇に転じるとは信じがたい。
岸田首相や政府が本気で少子化問題のトレンドを逆転したいなら、「第3子以降1000万円」の出産育児一時金を給付するくらいの覚悟が必要ではないか。
(問9)財源はどうするのか。
(答え)(問8)の施策により、仮に出生数が80万人から120万人に増加しても、そのうち第3子以降の子どもが30万人ならば、3兆円(=30万人×1000万人)の財源で賄うことができる(第1子以降1000万円だと、12兆円もの巨額な財源が必要)。
しかも、この施策のポイントは、第3子以降1000万円という異次元な政策であっても、その効果が無く、出生数がほとんど増えなければ、追加的な予算はほとんどかからないということだ。第3子以降が10万人しか増えなければ、1兆円の財源しかかからない。なので、数年間、実験してみても効果がなかったら、止めればよい。
なお、具体的な財源としては、例えば、消費税率を1%引き上げれば、2.8兆円の財源を得ることができるため、これを財源として、「第3子以降1000万円」の政策を実施することが考えられるが、消費税に固執する必要はない。
社会保険料の引き上げで財源を賄うことは、子育てを行う現役世代に負担が集中するために反対だが、消費税の増税が政治的に難しい場合は、引退世代にも一定の負担をお願いする観点から、社会保障給付の効率化を含め、既存施策の歳出削減などで賄うことも考えられる。
いずれにせよ、出生数の増加を目標に掲げるならば、本当にコアとなる政策手段を見定め、1点突破の姿勢で、例えば、「第3子以降1000万円」といった施策に資源を集中投下する検討も行うべきだ。
編集部より:この記事は投稿募集のテーマで寄せられた記事です。アゴラではさまざまな立場の皆さまからのご意見を募集します。原稿は、アゴラ編集部(agorajapan@gmail.com)にお送りください。