(問3)北欧諸国でもフィンランドの子育て支援は弱いのではないか。

(答え)いや、それはデータと異なる。フィンランドの2020年における社会保障費(対GDP)は42.1%で、この費用を100%とするとき、家族及び子育て支援が9.6%も占めている。すなわち、フィンランドの2020年における家族関係社会支出(家族及び子育て支援)は対GDP比で約4%(=42.1×9.6/100)にも達する。

他方、同年における日本の家族関係社会支出(対GDP)は約2%なので、フィンランドは日本の2倍もある。にもかかわらず、フィンランドの出生率は日本と同程度に低下しているのである。

(問4)先程から、「子育て支援」と「少子化対策」という2つの用語を使い分けているように思うが、何か理由があるのか。

(答え)それは、良い質問だ。そもそも、一般的に少子化対策といっても、様々な政策手段があり、出生数の増加そのものに直接働きかける出産育児一時金のような施策(a)と、出産後の子育て支援を行う児童手当や学童保育支援のような施策(b)の2グループがある。教育や子ども医療費の支援も(b)のグループに属す。少し前に話題となった税制措置の「N分N乗」方式も、グループ(b)に近い。

では、「子育て支援」と「少子化対策」の違いは何か。その違いは「時間軸」で考えると分かり易い。例えば、ある夫婦やカップルが子どもをもちたいと考えてから出産するまでという「時間軸(a)」と、出産後からその子どもが成人するまでの「時間軸(b)」で考えてみよう。

この場合、前者の「時間軸(a)」のなかで、出生数を増やすことを主な目的としたものが「少子化対策」であり、後者の「時間軸(b)」のなかで、生まれた子どもをもつ家庭に対し、その育児や教育などを支援することを主な目的としたものが「子育て支援」と区分する方法がある。

この意味では、不妊治療の支援の時間軸は(a)で出生数の増加そのものに直接働きかけるものであることから、「少子化対策」に属すが、児童手当の拡充の時間軸は(b)で出産後の育児などを支援するものであるから、「子育て支援」に属す。

(問5)厳密な意味では、「少子化対策」と「子育て支援」は区別できないケースもあるのではないか。

(答え)既述の区分方法では、出産育児一時金のようなグループ(a)に属す施策が「少子化対策」で、児童手当のようなグループ(b)に属す施策が「子育て支援」と区分できる。だが、例えば、子ども一人当たり毎年24万円ずつ10年間給付する「児童手当」を、出産直後に一括で240万円給付する施策に改める場合、それは「出産育児一時金」と実質的に同等になり、グループ(a)とグループ(b)の厳密な区分が難しいケースもあるのは事実だ。

しかし、この事実を前提にしても、少子化対策と子育て支援の違いを意識して、出生数の増加に及ぼす効果の序列や優劣を議論することが重要だ。この違いを意識せず、グループ(a)とグループ(b)のすべてに対し、総花的な対策で、資源の逐次投入を行っているだけでは、財源的な制約もあるなか、少子化のトレンド転換を果たすことは難しい。

人間は必ずしも合理的でなく、行動経済学的な知見を考慮すると、グループ(b)よりもグループ(a)の方が出生数の増加に寄与する可能性が高いという視点も重要だ。