懸念されるマイナンバーカード認証の課題点

——今後マイナンバーカード認証を利用したサービスが広がっていく上での課題はありますか?

松居:今、浮かんだ課題は3つあります。

1つはユーザーの利便性や操作の分かりやすさを考え、マイナンバーカードの認証をできるだけ簡単にできるようにすること。認証のためだけに「こんな作業をしてください」「このアプリをインストールしてください」とやると複雑性が上がりますし、手間ですよね。

2つ目としては、スマホのNFC機能を利用して行う現行のマイナンバーカード認証の仕組みに起因するものが挙げられます。マイナンバーカード認証は、どうしても端末側のNFC読み取り性能に依存してしまいます。端末の機種によっては、読み取りにかなり苦労することもあります。

国もこの課題解決に向けて動いており、スマホ自体にマイナンバーカード機能を内蔵する仕組みを準備しているようです。スマホにマイナンバーカードをかざさずに、公的個人認証サービスに直接アクセスできることを目指していると理解しています。

3つ目は、マイナンバーカードを初期登録するときのパスワードの多さです。おそらく4種類あるのですが、覚えていない方が多く、覚えていてもどのパスワードのことか分からないから全部試していらっしゃる方もいるようです。

ユーザーがパスワードを忘れてしまったとき、僕ら事業者はパスワードを知りえないため、尋ねられても「分かりません」としか答えようがないんです。

——運転免許証がマイナンバーカードに一体化されることが2024年に予定されていますし、利用シーンが増えていけばパスワードを都度求められる点は課題になりそうですね。

松居:運転免許証を見せて終わりだったことが、マイナンバーカード化されることで、パスワードの入力が求められるのであれば、ユーザーにとっての利便性はむしろ下がってしまいますよね…。

インタビュー後記

インタビュー前・後編を通して、デジタル地域通貨の現在と今後、デジタル地域通貨の普及に伴って進むであろうマイナンバーカード認証利用のメリット、そして検討課題が見えてきました。

2023年2月時点で、マイナンバーカード申請率は全国で9000万人を超え、人口比で70%を超える普及率となりました。公的な身分証明書としては最大規模のものです。

今後は行政、民間各社がさまざまな事業シーンでマイナンバーカードの本人認証を利用したサービスを展開することでしょう。また、利用の際の決済手段として地域通貨というデジタルバリュー活用がますます見込まれます。

同時にさらなる利用の拡大には、利用者視点や安全性の考慮を行うことが重要なポイントになるといえます。

<インタビュイープロフィール>

松居健太
ポケットチェンジ株式会社
代表取締役

東京大学大学院工学系研究科卒。在学中より、スタートアップ立ち上げや大規模国際NPOなどの経営に携わった後、マッキンゼーに入社。マネージャーとして、小売流通業界などの事業・組織改革、戦略立案、オペレーション改善などに従事。2010年、株式会社チケットスターを創業。設立3年目に取扱高50億、黒字化を果たし、楽天グループに事業売却。15年に株式会社ポケットチェンジを共同創業。事業開発、アライアンス、営業、資金調達など、ビジネス面の全般をリード。

<著者プロフィール>

川崎浩充
官民共創データ利活用エバンジェリスト
株式会社Public dots & Company

金融系13年、IT系業務を13年経験し現在に至る。1社目のオリエントコーポレーションでは、2000年からpaymentビジネス営業・企画、ECモール運営など実施後、全社横断DXプロジェクト(加盟店軸のビジネスモデルから顧客軸のビジネスモデルへの変革)を推進。

中期経営計画策定を実施後、顧客WEBサービス再構築、金融API設計及びAPI利活用ビジネスの立ち上げから専門部署設立までを遂行。大企業での経営決定プロセスと新規事業構築を経験。

2社目のデジタルガレージでは、新たなテクノロジー・デジタルによるDX事業や新規事業企画の推進と組織スケールを得意とし、ゼロから10年で年60億、100人の組織まで拡大させた実績をもつ。同時に複数の子会社役員の他、5年にわたって複数のスタートアップ支援、メンタリングを行い、次世代事業の創出にも注力。パブリック領域の新規事業部も設立を行う。

現在は官民共創における事業開発支援や民間データ活用による可視化領域などに従事。