外的報酬の動機付けでプロフェッショナル人材は定着するのか
下記の図は、中小企業・小規模事業者が人材定着のために行っている取組を見たものです。
「賃金の向上」(70.8%)や「雇用の安定化」(63.7%)が高い割合となっており、次に資格取得支援、一つ飛ばして、休暇制度の徹底などを行っているとのことです。「外的な報酬」を軸とした施策を行っていることが窺えます。
確かに、福利厚生が整っていないと、もしかしたら離職率は上がるかもしれません。
確かに、労働環境や条件が厳しいと、もしかしたら離職率は上がるかもしれません。
確かに、教育制度が整っていないと、もしかしたら離職率は上がるかもしれません。
確かに、評価制度が整っていないと、もしかしたら離職率は上がるかもしれません。
本当にそうなのでしょうか。「一般的な人材」はそうなのかもしれません。しかし、「プロフェッショナルな人材」はこの考え方で本当に定着するのでしょうか。
これらの「外的報酬」を軸としたものと、まさに、私がビズリーチ社で経験した、組織・人材への考え方は真逆とも言えるものでした。
驚異のカルチャー「仕事の報酬は仕事」
私がビズリーチ社に入社したのは、当時22歳の時です。外資系企業のデル社からキャリアを始めました。デル社の、顧客に高品質の製品やサービスを競争的価格で提供する、顧客に最適化されたまさに「オペレーション・エクセレンス」には大きな学びがありましたが、離職しました。
人材を扱うという点で、変数が大きく真逆と言えるほど異なるカルチャーの企業に興味を抱き、ビズリーチ社に第2新卒として入社しました。
ビズリーチ社は当時、月々30人〜40人近くの中途採用を進めており、まさに事業も組織も急成長をしている真っ只中でした。全従業員と言っても過言ではないほどに多くの人々にとって内的報酬のみが働く理由でした。
組織の根底に根付いていたのは、まさに「仕事の報酬は仕事」という考え。
何か良い仕事を遂行することができたら、報酬としてより責任の重い、難易度の高い仕事が与えられていました。役員陣全員が「従業員を成長させる機会と環境の用意は約束する」と口を揃えて言っていたことを覚えています。
さて、ここで考えたいのが、「人々を仕事に駆り立るものは何か」ということです。
人を仕事に駆り立てる心理とは?
それは、アメリカの心理学者ハーズバーグ氏の研究「二要因論」からも明らかなように、「外的な動機付け」によるものではなく、仕事そのものへの没頭感、またその過程の中で感じられる達成感や成長感であると考えています。
あるいは仲間と共に承認し合い、お互いが切磋琢磨している人間関係といった、人間的要素を多分に含んでいる「内発的な動機付け」こそ、やはり本質的な活性化につながる要因であると考えています。
参考記事:給与、労働環境から働きがいは生まれない? 仕事へのやりがいをどのように創っていくのか
また、内発的動機付けの有名な研究として、「職務設計の中核五次元」があります。心理学者であるハックマン氏と経営学者オルダム氏が、「仕事の特性」が人の「心理的な状態」に関連すると考え、その研究内容を「職務特性モデル」として理論化したものです。
第1の次元は、「技能多様性」です。これはその仕事を行うにあたって、どの程度様々な能力を求められるかという観点です。
単調な仕事ではなく、自分が持つ多様なスキルや才能が活かせる複雑性のある、あるいは高度な仕事であればあるほど仕事を有意義で価値があり、重要だと感じる傾向にあります。
第2の次元は、「タスク完結性」です。自分の仕事が大きな歯車の単に一部分にしかすぎないのか、始めから終わりまでの全体性を理解した上で、関われる仕事であるかが重要になります。
第3の次元は、「仕事の有意義性」です。自分の仕事にはどれほどの意味があるものなのか、他者の生活や社会に影響をもたらす、なくてはならない重要な仕事であるかが重要になります。当然ながら、自分の仕事は価値があり、重要だと感じるほど内発的な動機付けが高まります。
第4の次元は、「自律性」です。これは、自分の仕事がどの程度自らの裁量によって行えるかということです。一つひとつ上司からあれこれ細かい指示が必要なのか、それとも自分で計画を立てたり目標設定したり、自分の意志で進められる自由度の高い仕事なのかという観点です。
当然、自由裁量が大きければ、自ずと責任が感じられ、内発的な動機付けが高まります。
第5の次元は、「フィードバック」です。行った仕事が、どの程度うまくいっているのか都度知ることができるかという観点です。
言われた仕事をただこなすだけで、結果について何も知らされない場合と上司や周囲からリアルタイムに仕事の成果を知ることができる環境とでは、やはり後者の方が内発的な動機付けが高まります。
当時在籍していたビズリーチ社は、個々人のスキルと自由な裁量を与え、さらには良い仕事をすれば様々なプロジェクトにアサインされ、従来の経験や枠を超えたマルチプルな仕事に挑戦できる環境が意図的に創られていました。
ハーズバーグ氏の動機付け理論やハックマン氏とオルダム氏の職務次元モデルからも明らかなように、このことにより、大袈裟な話ではなく、1ヶ月毎に自らの成長が実感できる風土がありました。
さらに、「全員が創業メンバー」という当時、私の最も好きだったクレド(企業理念)のもと、個人と個人の関係性という見えない空気さえ活気に満ちていたことを覚えています。