要するに再エネ電気は、たくさんある時もあれば、全然ない時もある。1日の間でも増減は激しい。再エネが増えれば増えるほど、それを均すためのガスが必要になる。そのガスは今やLNGなので、以前の安値とは比べ物にならない。

ハーベック経済・気候保護相Wikipediaより

ところがハーベック氏は電力拡充のため、今後、全力で再エネを増やすという。日射時間が短いドイツで頼りになるのは風力なので、風車には国土の2%を割き、設備容量を2〜3倍にする。また、ここ数年、風力に対する投資が急激に減っているため、その対策も取る。つまり、補助金をさらに増やし、住民の建設反対運動を抑えるために法律を改正し、また、風車の認可に乗り気でない自治体にはプレッシャーをかけるというから強権的だ。

ただ、真の問題は、そうして風車をたとえ10万本に増やそうが、風がなければ発電量はやはりゼロになること。しかし、ハーベック氏はその事実も見ないし、お金が無駄になるのも気にしない。緑の党とはそういう党だ。

ドイツのあらゆる政策が、脱炭素を中心に回り始めてすでに久しい。現在、家庭の暖房のほとんどは、ガスか灯油のセントラルヒーティングだが、政府は24年1月より、まず新築の家屋でそれらを禁止し、ヒートポンプ(電気)式の暖房を義務化するための法律を策定中だ。しかも、そこで使われる電気は、少なくとも65%が再エネ由来でなくてはならないという。

さらに35年からは、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車といった内燃機関の自動車は新規登録ができない。つまり、35年以後に車を買うなら(水素燃料エンジン車などを除けば)、電気自動車しか選択肢はない。

ただ、暖房と自動車は贅沢品ではなく生活必需品なのに、ヒートポンプも電気自動車も、低所得者の手には負えない値段だ。また、既存の家屋の暖房も、徐々にヒートポンプ式に変えなければならないが、その場合、床を剥がすなどという大々的な工事が必要になる場合が多く、この負担が最終的に不動産所有者に降りかかる。当然、その余波が借家人にも及ぶことは必至だ。

そこで社会の混乱を懸念したハーベック氏は、ヒートポンプにも電気自動車にも十分な補助金をつけると広言しているが、実際問題として、ドイツには約4100万の世帯があり、そのうち5割強がガス、25%が灯油を使っている。また、ドイツで登録されている乗用車は約4800万台だから、3000万世帯の暖房を入れ替え、4800万台の車を電気自動車に置き換えるという計画は、かなり非現実的だ。

しかも、あらゆる部門が人手不足である現在のドイツにおいて、何千万個ものヒートポンプを誰が製造し、誰が施工するのか。下手をすると、太陽光パネルや風車と同じく、あっという間に中国だけが儲かる構図が出来上がる気もする。また、補助金の額は天文学的な数字になるだろうが、目下のところ、その額も財源も全て不明。

さらに言うなら、ヒートポンプや電気自動車が使用する大量の電気を、誰がどのように調達するのかもわからない。原発がなくなったからといって、太陽や風が余計に照ったり吹いたりしてくれるわけではないし、大規模な蓄電装置は実用には程遠い。ハーベック氏が好んで言及する水素社会も遥か先の話。ひょっとすると、ウクライナ戦争が終結したらロシアとの国交を復活させ、誰かが爆破した海底ガスパイプラインを修繕し、再びロシアガスで景気を盛り上げるつもりだろうか・・。

しかし、ハーベック氏にはそんな迷いは一切なく、ヒートポンプ法案を夏までに通すつもりだ。