Will・Can・Must

「やりたいこと(Will)」は、自己成長において非常に重要なエネルギーです。しかし、“やりたい”という気持ちだけでは、周りから任されることも、周りを動かすこともできません。まずはやれることを増やさなければいけません。

私の場合、最初は中小企業経営をやりたいとは思っていなかったのですが、その経験が後のキャリア形成に大きな影響を与えました。目の前にあった「やらなければいけないこと(Must)」が「やれること(Can)」を増やしてくれたと思っています。

言うまでもなく印刷業界は、IT業界に押され右肩下がりの産業です。当時、業界をあげて、生き残り策(社会の新しい役割)を検討している状態でした。策はあれど、いざそれを実践するのは簡単ではありません。

なぜなら、印刷業界は多額の設備投資を行っており、さらに工員も抱えているからです。そのため、新しいチャレンジを開花させながら、既存事業を緩やかにクロージングし、BS(貸借対照表)を健全な状態にして業態転換を図っていかなければいけません。

そんな苦しいこと、「やらなければいけないこと(Must)」以外、何ものでもありません。綱渡りのような中小企業経営の経験は、右肩上がりのベンチャー企業の経験とは違う「やれること(Can)」を、私に与えてくれました。自分自身の幅を広げるチャレンジを続けていた訳です。

隣のマスに進みながら、多様性を身につけよ

それでは、どのようにチャレンジを続けるのか。いちばん良いのが、今いる組織の「やらなければいけないこと(Must)」を通じて、自身の「やれること(Can)」を増やし、それが自身の「やりたいこと(Will)」に繋がっている実感があることです。

このような状態なら、転職など考える必要はありませんね。

しかし、そのような実感がなくなった時に、転職というカードを使って、隣のマスに進めるかどうかです。

忘れてはいけないのは、どんなに魅力的に見えても、斜めのマスに一気にジャンプしてはいけないこと。そこはまだ、自身の「やれること(Can)」が足りていない領域です。

だからこそ、今いる組織の中でも、常に隣のマスに進むことを心掛けておくことが大切です。その時は無駄に思える隣のマスに進む経験(実績)ですが、隣に隣に進んでいると、いざ転職の時にその経験(実績)は大いに活かされるのです。

環境か?自分自身か?

ここで皆さんに言われそうなのが、

「今の仕事を極める前に、隣のマスに進む辞令が出る」
「異動先のマスが斜めの位置にある」

そんな悩みです。

つまり、進むマスが自分の意志、つまり「やりたいこと(Will)」ではないことから来る、異動のミスマッチです。全体最適の中で生じる歪みと言えます。しかも、自分が適材だと思えない(Can Not)ため、ただただ、やらなければいけない仕事(Must)になってしまいます。苦しいですね。

確かに、環境は与えられるもので、自分の意志が及ばないことがあります。しかし、うまくいかないことを環境のせいにしてしまう他責の人材は、組織からは必要とされません。

組織に必要とされるのは、環境のせいにせず、どんな環境でも「自分自身に何ができるか」と自律的に行動できる人材です。

これは冒頭でも書いた「組織に必要とされるのは組織に依存しない自律型の人材」「組織に依存する人材ほど組織からは必要とされない」という内容と大きく関わる部分です。

私自身も、20代半ばの頃はどの職種でもうまくいかず、営業職も、クリエイティブ職もダメでした。その頃、コピーライターだった上司に言われたのが、「環境が変わればうまくいくと思うのは幻想だ」という言葉でした。

非常に厳しい人で、ドロップアウトしそうな私に「環境が変わっても、お前が変わらなければ何も変わらないぞ」ということを伝えたかったのだと思います。

それから私は、少しずつですが、環境のせいにすることを止めました。代わりに、自分の行動と向き合うようになりました。

詳細は書けませんが、転職先の中小企業では想定外のことが次々と起こりました。ただ、それを機会だと捉えて受入れるか、この転職は失敗だったと捉えるか。それは本人次第だと思います。

私の場合、その経験を活かして、内閣府に越境転職しました。そして今は、公務では沖縄振興の産業政策に取組み、プロボノでは自分自身の幅を広げる官民連携のチャレンジを始めています。

振り返ってみれば、沖縄の印刷会社に入ったことは、単なる「機会」にすぎないと思えてしまいます。

どんな状況下でも環境のせいにせず、どんな自分で在りたいかで行動すること。それができれば、自然と環境に適合できるものです。

<著者プロフィール>

鈴木圭三
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム

新卒で入ったプロモーション会社で上場を経験。2014年、沖縄に移住、創業50年の印刷会社へ。経営改善に取り組み、新事業として街づくり会社を立ち上げ。地域課題をビジネスで解決するべく地域産業のプラットフォーム施設を運営し、豊見城市の創業支援認定機関としての活動や、内閣府の地域プロデューサー育成プログラムを受託するなど、主に産業分野の地域活性化事業を推進。

2020年7月、内閣府沖縄総合事務局に入局。これまでの、ベンチャー⇒上場企業⇒町工場⇒ソーシャルビジネスの経験を活かし、プロデューサー型公務員として、沖縄振興に取り組む。2023年1月、官民共創未来コンソーシアムに参加。公務員のキャリアデザインをテーマに、自らが2枚目の名刺を持ち、プロボノ活動を開始。

資格:JBIA 日本ビジネス・インキュベーション協会 認定インキュベーションマネージャー