機械が得意とする「定着(できる)」

「定着」において重要なことは「記憶」です。「テストのために英単語1000個を覚える」ことが苦しい一方で、「今日の朝ごはんに何を食べたか?」は、苦しまずに殆どの人が思い出せます。

つまり、人間にとって記憶すること自体は難しいことではなく、「何を覚えているか」「何を忘れたか」「どのように覚えるか」など、記憶を管理することが苦手であり、嫌いなのです。

苦手な理由のひとつとして、せっかく覚えたものを忘れてしまうことがあります。これは、正しい記憶の手法を利用できていないことがひとつの要因です。

記憶の長期化には、記憶する対象を読んだ後にテストをすることが有効であるという研究結果が出ていますが、学習者はただ読むことを繰り返す学習法の方が効果実感が高いと感じ、好みます。

このように、学習者が間違った学習方法を選んで、失敗をしてしまうことが、「記憶」を苦手とする一因です。

「定着(できる)」領域で、問題を解くことが記憶定着に効果があるとした場合、学習過程での機械の利用事例として、作問は「誤答生成」、難易度調整は「正誤予測」、採点は「音声認識・手書き文字認識」、反復は「忘却予測」などに該当します。

作問領域は人間の方が得意ですが、コスト削減には有効です。その他領域では機械を利用することで、成績向上の効果を期待できます。

このように「定着(できる)」は、人間よりも機械の方が得意な部分が多く、弊社の「Monoxer」もこの領域にフォーカスをしています。

「活用(使える)」過程では人間が強い

しかし、作問・採点の場面においても、ChatGPTに指示を出すことで人間よりも正確に瞬時に対応ができるようになってきています。

また、「試行錯誤」領域でもChatGPTでは人格形成もできてしまうことから、人間が最短距離で発問できる的確な質問を投げかけることができるようになってきています。

しかし、各個人が試行錯誤できるようなコミュニケーションレベルの調整を行い、悩める場を作り出すことは人間にしかできないことです。

さらに、ICTツールよりも従来の紙と鉛筆を用いた方が、「俯瞰のしやすさ」「試行錯誤のしやすさ」などの点で優れているため、紙・プリント利用を減らしたい場合にもメリットがあります。

人間と機械、それぞれのサポートをバランス良く活用

「理解(分かる)」ためには、人間の優位性が高い現状です。「正しさ」の領域ではAIには勝てませんが、共感体験は個人差があるため「分かりやすさ」「面白さ」の観点では人間に分があります。

時間、費用といったコスト削減をして指導者が対応できていないことに工数を割くための機械の利用が有効です。

一方「定着(できる)」の部分は、宿題に代表されるような、学習者による自学自習で機械の力を借りることで成績向上に寄与できます。たとえば大学受験では、合格に向けて学校での授業時間よりも自習時間が圧倒的に長くなりますので、有効に活用できることでしょう。

また、「活用(使える)」では一部、協働学習ツールを活用してコスト削減をしつつ、試行錯誤の分野では指導者がサポートする余地があります。

目的、段階に合わせて機械に任せる分野を見出し、バランス良くAI技術を活用していただくことが重要です。

<筆者プロフィール>

竹内孝太朗
モノグサ株式会社
代表取締役CEO

名古屋大学経済学部卒。2010年に株式会社リクルートに入社。中古車領域での広告営業に従事し、2011年に中古車領域初および最年少で営業部門の全社表彰を受賞。2013年からは「スタディサプリ」にて高校向け営業組織の立ち上げ、学習到達度測定テストの開発、オンラインコーチングサービスの開発を行う。

高校の同級生である畔柳(くろやなぎ)圭佑とMonoxerを共同創業。