しかし一方、これまでの歴史記録や地震痕跡を見る限り、100〜150年周期で南海トラフ巨大地震が襲ってくることはほぼ確実である。地震を機に、それまで知られていなかった活断層が動くこともあり得るだろう。トンネルその他、人工物はこれらの天災に、ほとんど無力である。我々は、その種の想像力を持つ必要がある。
続く第2部は「ポストコロナのリニアは時代錯誤」と題されており、これも4つの章からなる。これらはもう少し詳しく紹介する。最初の第5章は「地球温暖化防止に逆行するリニア新幹線」。要するに、リニア新幹線は消費電力が大きく、化石燃料の大量消費とCO2排出を抑えるべき今後の日本では使えない(使うべきでない)と主張している。
なお、CO2と地球温暖化に関して、本書の著者は「人間のCO2排出だけで気温が厳密に決定されることには疑問を感じる」と、断りを入れている。科学者らしい慎重な態度と言うべきだろう。
本書の表7には、リニア中央新幹線・在来型新幹線・航空機の、消費電力・CO2排出量などの比較が載っている。これらはエネルギー消費量の目安と見て良い。
それによれば、1座席当たりのCO2排出量で見ると在来新幹線を1としてリニアは約6、航空機は約11と言う値になっている。1人1km当りの消費電力量で見ても、在来新幹線は28であるのに対し、リニアは99で、約3.5倍も大きい。最高速度は約2倍なので、効率はかなり悪いことになる。実際に営業運転となれば、東京・大阪間で原発1基分程度の100万kWの電力が必要となる事実は重い。
第6章は「ポストコロナの日本を『超広域複合大震災』が襲う」である。本書の著者は、専門の地震学の立場から、今の我々が日本史上数えるほどしかない「大地動乱の時代」の只中にあることを教えている。
その始まりは1853年から3年続きで起きた小田原地震、安政東海地震、安政江戸地震である。その70年後の1923年に大正関東地震があり、1995年に阪神・淡路大震災、2011年東日本大震災、2016年熊本地震と続く。その終幕として、南海トラフ巨大地震が来るはずだと言う。それが済めば、また100〜150年程度、比較的安穏な時代が来るだろう。
何を大げさな・・と思う方がおられるかも知れないが、これは「オオカミ少年」の言葉ではない。記録された範囲内でも一定周期で巨大地震が襲来してきた歴史的事実があり、それを裏付けるメカニズムとして、刻一刻動き続ける数枚の地下プレート運動が観測されている以上、地震はいつか確実に来る。ただし、それがいつ起こるか、正確に予測することが現時点では出来ていないだけである。
それに備えるために、東京一極集中を抜本的に是正し、分散型国土の創生に着手すべきだと言うのが、本書の著者石橋博士の主張である。なぜなら、前回のトラフ地震が1850年代、つまり幕末の頃であり、近現代日本で南海トラフ巨大地震が襲来するのは初めてだからである。
東京は、関東大震災と太平洋戦争でそれぞれ廃墟と化したが、そのたびに再興してきた。しかし当時と現在では、人口密度や建物の集積度が格段に違う。高層建築が増え、地下街も広大化し、地下鉄網も大深度にまで及んでいる(新しい地下鉄ほど深い)。ひとたび巨大地震に襲われたら、被害の深刻さは過去と比べ物にならないはずだ。